歪んだ月が愛しくて1
頼稀Side
「ありがとう。こんな俺のことを心配してくれて。俺のこと、知ろうとしてくれて…」
立夏の言葉に驚きを隠せなかった。
「俺は皆のことを何も知らない。知ろうとも思わなかったのに、それなのに…皆はこんな俺をクラスメイトの一員として見てくれた。それに気付けた時、凄く…凄く嬉しかった」
俺だけじゃない。
クラス全員が立夏の言葉に唖然とした。
いや、思考が追い付いて来なかった。
だって急に…、その変わりようは不自然だろう。
中1の頃からずっと立夏を見守って来た。
だから立夏の過去も傷もトラウマも全部知ってる。
俺が知ってる立夏は卑屈で意地っ張りで口が悪くて、一言で言うと野良猫みたいな奴だ。手を出したら引っ掛かれて怪我だけじゃ済まない。
そんな立夏が懐いたのは今にも後にもアイツ等だけだった。
アイツ等と出会って立夏は少しずつ変わっていった。
卑屈で意地っ張りで口が悪いところは変わらないが他人のことを気遣えるようになって尚且つ笑えるようになった。
でもあの事件がきっかけで立夏の心はまた壊れた。
大切な人を失う悲しみが再び立夏の心を深く抉った。
それから数ヶ月後。
ボロボロで傷付いた羽を隠して愛想笑いの仮面を付けた立夏は俺の前に現れた。
ああ、こんなに傷付いて…。
もう頑張らなくていい。
もう傷付かなくていいから。
そう言って立夏の心を救ってやりたかった。
でも俺は立夏のことを分かっていなかった。
立夏は何度裏切られても傷付いても立ち上がろうとした。
忘れてたんだ。立夏は自分のことを蔑ろにする自己犠牲主義者だと言うことを。
それは癖や性格じゃなくて自分が傷付かないための自己防衛だった。
それでも立ち上がろうとするのはきっと心のどこかで誰かを信じたい気持ちが残っているからだ。
裏切られてもいい。
自分のせいで誰かが傷付かなければそれでいい。
それが今の立夏の根底にあるもの。
その証拠に立夏は自分から心を開こうとしない。
いつも誰かに抉じ開けてもらうのを待っている。
……だから信じられなかった。
「俺も、皆のことが知りたい」
人付き合いが苦手で、人一倍臆病な立夏の言葉とは思えなかった。