歪んだ月が愛しくて1
「立夏くん、親衛隊のことは未空から聞いてますか?」
親衛隊?
何とか煙草の件を誤魔化せたかと思えば次から次へと質問めいた疑問符を投げ掛けられる。
「いえ、何も…」
「あ、忘れてた」
「おい」
「お猿は使えねぇな〜」
「だってあの日はリカがいなくなって大変だったんだよ!てか猿じゃねぇし!何度言ったら分かるんだよこのエロガッパ!」
「誰がエロガッパだ、このクソチビ猿!」
未空は当然のように陽嗣先輩に突っ掛かり、陽嗣先輩もまた未空のペースに乗ってすぐムキになるから言い合いに発展する。これがいつもの流れ。いつもの光景。
なのに、何故か視界が歪む。
「ごめん。俺が皆に迷惑掛けたから…」
「あ、違うよ!リカは悪くないからね!全然迷惑じゃないから!」
ブンブンと、未空は両手を左右に振って俺の考えを否定する。
未空が俺に気を遣って言葉を選んでくれているのは有難いが俺が迷惑を掛けているのは事実だった。
責められるのには慣れてるくせに気を遣われるのには慣れないなんて可笑しな話だ。
「それに“ごめん”じゃないでしょう?」
未空は俺の顔を下から覗き込む。
その顔はどこか試しているようにも見えた。
「……ありがと」
「うん!リカ可愛い!」
ギュッと俺を自分の腕の中に閉じ込める、未空。
抱き締められたことに対しては特に抵抗しなかったがその台詞ははっきりと否定させてもらう。
「……可愛くない」
「リカは可愛いよ!世界で一番可愛くて綺麗だよ!」
「せめてどっちかに統一しない?」
「やだ〜。だって本当に可愛くて綺麗なんだもん。それに関しては全面的にリカが悪いんだよ?」
「何でだよ」
不意に誰かの舌打ちが聞こえた。
「おいおい、急成長じゃねぇの」
「驚きましたね。僕達の知らないところで一体何があったのやら」
「……知るか」
「ふふっ、本当は気になってるくせに」
「あ?」
「素直じゃねぇな、王様は」
「全くですね」
「黙れ」
3人は俺と未空に聞こえない小さな声で何やら話をしている。
聞かれたくない話なのかな…、と思って空気を読んであげたのに会長の黒曜石が終始俺と未空を睨み付けているから気になって仕方なかった。