歪んだ月が愛しくて1
「着いたぞ、3010号室」
「ここが俺の部屋?」
寮長の顔面に一発入れた後、俺達は管理人室を出て頼稀の案内で3階の3010号室までやって来た。
管理人室の扉同様、扉の上部に付いている金のプレートには「3010」と記されている。
部屋の前には既に希が運んでくれた段ボールが積まれていた。
「段ボールはここでいいか?」
「あー…うん。ごめん先に運んでもらっちゃって」
「気にすんなよ。寮長には会えた?」
「……会ったには会った」
「ん?」
「聞いてよのんちゃん!アゲハの奴リカにチューしたんだよ!俺だって我慢してんのに!」
「は?チュー?」
「手の甲にだぞ」
「俺もするー!」
「お前は飛び付くな」
頼稀は俺目掛けて飛び付こうとする未空の首根っこを掴むと持っていた段ボールを床に置いてズボンのポケットから何かを取り出して俺に投げ付けた。
「カードキー?」
「アゲハさんから預かった。お前、アゲハさんに一発入れてすぐ出てっただろう」
「あー…」
忘れてた。
「お前は1人部屋なんだ。それ無くしたら入れなくなるぞ」
「1人部屋?」
「え、リカって1人部屋なの?今の1年と2年は全員2人部屋なのに」
「いや、聞いてるのは俺なんだけど」
「偶々部屋が空いてたんだろう。別に気にするほどのことじゃない」
「さっすが特例」
「だから嬉しくねぇって…」
そう言うのが嫌なんだよ。
つくづく悪目立ちさせやがって…。
「それとカードキーにはクレジット機能も付いてるからな」
「クレジット?」
「ここでの買い物は全部それを使え」
「カードキーは常に肌身離さず持ってないと飯が食えなくなるぞ。購買部や自販機でのちょっとした買い物も全部それな」
「え、でもさっき食堂で…」
「それは俺が支払った。お前カードキー持ってなかったしな」
「ごめん。俺そうとは知らずに…」
「俺からの入学祝いだ」
「いや、でも…」
「良いんだよ。有難く受け取っとけ」
「……ご馳走様です」
「ああ。兎に角それは渡したからな」
「無くすなよ〜」
「無くさないって」
校章のことで紀田先生にも念を押されたからな。
「じゃあまた明日な。今日は初日だったんだしゆっくり休めよ」
「明日の朝は部屋で待っててね!迎えに行くから!」
「お休み」
「……うん」
部屋の前で別れて、皆は各々の部屋へと戻っていく。
「また、か…」
結局、葵には会えなかったな。