歪んだ月が愛しくて1
「りっちゃんも隅に置けねぇな」
「だから本当に違うんで、す…っ」
途端、指先に走る鋭い痛みに言葉が詰まる。
予期せぬ痛みに思わず顔を歪めると。
「どうした?」
鞄に手を入れたままの俺を不審に思ったのか隣に座る会長が怪訝そうに俺の顔を覗き込む。
「何でもない、です」
「………」
更に会長が眉を顰めたのが分かる。
会長は無言で俺の腕を掴み鞄の中に入っていた方の手を自身の目の前まで持ち上げた。
血の臭いが一層強まる。
「リカ、それ…っ」
「血?」
「お前…」
「……離して下さい。服が汚れますよ」
それもそのはずだ。
俺の指先からは真っ赤な鮮血がポタポタと流れ落ちていた。
「どうでもいい」
どうでもよくない。
止まる気配のない血を見て思う。
血は固まったら中々落ちないと言うのに弁償しろって言われてもしねぇからな。
「痛むか?」
「いえ」
会長は俺の顔と傷口を交互に見つめたかと思えば徐に指先から垂れ流れる血を舌で掬った。
「な、何やって…っ」
「煩ぇ、黙ってろ」
会長の突然の行動に声を上げて制止するも当の本人は全く取り合ってくれずあろうことか躊躇いもせずに俺の指先を口内に含んだ。
「っ、」
ぬるっとした生温かい感触とざらついた舌が傷口に触れる。
「九澄」
「すぐに用意します」
会長は俺の指から口を離すと九澄先輩に何かを指示した。
皆の前で何してくれてんだよ、と文句の一つでも言ってやろうと思ったのに会長の顔があまりにも真剣で、未空と陽嗣先輩まで険しい顔で俺を見るものだからそれ以上何も言うことが出来なかった。