歪んだ月が愛しくて1
「……やっぱり、リカは全然分かってないっ!!」
俺の左隣で感情を爆発させる、未空。
「俺、リカが教室で皆に“ありがとう”って言ったのを聞いて少しずつだけどリカのネガティブ思考が良い方向に変わっていってると思って嬉しかったんだ…。でもやっぱりリカは何も変わってない…。何も分かってないっ!」
何が、と思った。
でも未空の真剣な顔を見たら何も言えなかった。
「俺って、そんなに頼りない…?」
そんな顔しないで欲しい。
どうしていいのか分からなくなる。
「俺には話せない?」
頼りないとか、話せないとか、そんな大袈裟なものじゃない。
「……そんなことないよ。ただ頼る必要がなかっただけ」
「っ、」
本当にそれだけ。
俺はこの程度で傷付くほど柔じゃない。痛みには慣れてるし怪我なんて今更だ。
そうやって自問自答しないと保てないんだ。
俺を拒絶する言葉から自分自身を守るためには…。
「ははっ、りっちゃんは残酷だね〜」
陽嗣先輩はソファーから立ち上がってそう言った。
隣のいる未空は嘘のように無口だ。
「残酷?」
「一つ、猿の肩を持つなら…」
陽嗣先輩は未空の首根っこを掴んで扉の方へ引き摺って歩き出す。
「誰かのことを知る前に身近な奴のことをもっと知ってやってよ」
チクリと、その言葉に胸が痛かった。
「身近って…」
「まあ、ゆっくり考えればいいんじゃねぇの。時間は沢山あるんだからよ」
他人と関わることが怖かった。
どうせ独りになるなら初めから何もいらないと思っていた。
でもこんな俺を心配してくれる人達の存在を知ってこのままじゃいけないことに気付かされた。
それなのに俺は何を間違えた?
何が足りない?
「宿題だな」
くくっと苦笑する、陽嗣先輩。
そんな陽嗣先輩に九澄先輩が言葉を投げる。
「どこに行くんですか?」
「ちょっと一服」
そう言って陽嗣先輩は未空を連れて生徒会室を出て行った。
その後ろ姿に何も言えないまま視線だけが追い掛ける。
「全く未成年のくせに…」
陽嗣先輩が残した大量の宿題。
そして未空のあの表情。
「何なんだよ…」
頭がガンガンする。
反響するのはいつもあの言葉。
『貴様さえいなければ…っ』
守らなきゃいけないんだ。
白で引かれたボーダーラインを。
その線は決して越えてはいけない。
越えてしまったら最後きっと元には戻れないから。
トンッと、カップをローテーブルに置く音だけがやけに耳に付く。
その音にゆっくりと視線だけを上げると会長の視線とぶつかった。
「………」
「………」
でも会長は何も言わない。
俺も何も言えなかった。
黒曜石に映し出された俺の姿があまりにも情けなくて言葉が出て来なかった。