歪んだ月が愛しくて1
陽嗣Side
未空を生徒会室から連れ出した後、俺達は“Little Eden”で周囲の視線を集めていた。
「おーい、クリーム溶けんぞ」
未空は食堂に着くなり大量のデザート類を注文した。
端から見ても胸焼けしそうな光景だ。勿論俺も例外じゃない。
「……別にいいよ」
何を拗ねてんだか。
「食わねぇなら食っちまうぞ」
「うん…」
まるで心ここにあらずだな。
それから未空は俺の言葉に適当に相槌を打つだけでスプーンを持ったまま一向に手を動かそうとしない。
「大食い猿のくせに…」
そんなにりっちゃんの言葉がショックだったわけね。メンタルよっわ。
(まあ、気持ちは分からないでもないけどな…)
薄々分かっていた。
りっちゃんは誰も寄せ付けない、誰にも心を許さない、誰にも靡かない、まるで野良猫みてぇな子だって。
「……俺、結構仲良くなった気でいたんだ」
「お前の方はゾッコンだもんなぁ〜」
「うん。でもそれは俺だけだった…」
未空がそう思うのも無理はない。
あそこまできっちり境界線を引かれちゃな。
しかも本人は無意識と来た。それが余計に質が悪い。
(本当、何でりっちゃんなんかを選んじまったのかね…)
「チッ、ムカつく」
未空の口調がガラリと変わる。
「頼る必要がないってんなら初めからこっちに入ってくんなよ。期待持たせんなよ。あれで境界線引いてるつもりなら甘ぇんだよ。もっと全力で拒否れよ。近寄って来る連中を跳ね除けることも出来ねぇくせによく言うぜ」
おいおい、相当キてんな。
りっちゃんにも見せてやりてぇよ。この変わり様。
「くくっ」
「何が可笑しいんだよ?」
「いんや、別に」
「じゃあ何?言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「言いたいことって言うか…、助言?」
「は?」
「一層のこと捨てちまえば?りっちゃんのこと」
「………」
「切り捨てるなら今だぜ」
未空の答えなんて分かりきっている。
でもそれを態と声に出して言わせたいのはきっと俺達が猿に甘い証拠なんだろうな。
「ハッ、今更」
乾いた笑みを漏らす、未空。
俺の言葉を根本から否定するその冷笑に思わず釣られて口元が緩んだ。
「じゃあどうすんだよ?」
俺の言葉を聞くや否や未空は手に持っていたスプーンを口に加えて悪戯を思い付いたガキのように口元に弧を描く。
「頼る必要がないんだったらこっちから頼ってやるよ」
「ストーカーかよ」
「ストーカー上等。あれくらいの境界線ぶっ壊せなきゃ未来の恋人は名乗れねぇよ」
まあ、今更捨てられねぇのはお前だけじゃねぇだろうがな。