歪んだ月が愛しくて1
嵐の前兆
立夏Side
「立夏?」
生徒会室からの帰り道。
自室に戻るため学生棟の1階のエレベーターホールでエレベーターを待っていると不意に背後から声を掛けられた。
「……頼稀?何でここにいんの?」
「お前こそ」
「俺は生徒会の帰りだよ。そっちは?」
「アゲハさんに頼まれて寮直の代理」
「サボり?」
「いや、その辺で電話してる」
「電話?」
「アゲハさんには目に入れても痛くないほど可愛がっている妹君がいるんだよ」
「ふーん…。アゲハって妹いたんだ」
1人っ子だと思ってたから何か意外…。
まあ、俺には関係ないけど。
「で、その怪我は?」
「……あ」
忘れてた。
「その顔は忘れてたな」
流石は頼稀様。
やっぱり目敏いオカンだな。
「ちょっとこっち来い」
「え、何で…」
嫌な予感。
すると頼稀は口元に弧を描きながら満面の笑みを浮かべて。
「詳しく話を聞いてやるよ。管理人室でじっくりとな」
「あ、ははっ…」
それから有無を言わさず管理人室に引き摺り込まれた俺はこれ以上頼稀の機嫌を損なわせないために生徒会室でのことを洗いざらい正直に話した。と言うより指の包帯でほぼバレてた。
「指は大丈夫か?」
管理人室に入ったのはこれで二度目だが、最初の時とは違い気心知れた頼稀と2人きりの状況で且つじっくり話を聞くと言った頼稀に奥のリビングへと通された。
初めて来た時はホテルの客室みたいだと感心した覚えがあるが、聖学の空気に慣れつつあるせいで室内の飾られている絵画や置物を見ても当初のような感動が一切湧いて来なかった。
そんなリビングの中央には木製のテーブルに3人掛けの黒いソファーと同じ色のスツールが2脚。これに関しても「ふーん」って感想して出て来ない。
俺は頼稀に促されるままソファーに、頼稀はスツールに座って包帯が巻かれた俺の指を見ながら心配そうな声を上げた。
「問題ないよ。でも…」
「未空か?」
「………」
「未空の言葉が理解出来ないのか?」
『俺、リカが教室で皆に“ありがとう”って言ったのを聞いて少しずつだけどリカのネガティブ思考が良い方向に変わっていってると思って嬉しかったんだ…。でもやっぱりリカは何も変わってない…。何も分かってないっ!』
「……出来ねぇよ」
俺は何を分かってないんだろうか。
自分のことなのに自分がよく分からない。
「欲張りだな」
「え、」
欲張り?
「未空のことだ。アイツはお前をどうしたいんだろうな」
「それが分かれば苦労しねぇよ…」
「確かにな」
「頼稀には分かんの?未空が言ってた言葉の意味が」
「ああ。でも俺は未空の言葉を代弁するつもりはない」
「何で?」
「俺が言ったところで何も変わんねぇだろう?」
「……それは自分で気付けってこと?」
「いや、正直俺は未空の言葉を無理に理解しなくてもいいと思ってる」
その言葉に目を瞠る。
「何で…」
未空を怒らせて、陽嗣先輩に宿題を出されて、それなの頼稀は俺を否定しない。
優しい…と言うか発言の意図が分からなかった。