歪んだ月が愛しくて1
「未空の言葉を理解するってことはな、お前自身が変わるってことなんだよ」
「変わる?」
人間はそう簡単に変われない。
どんなに変わりたくても口で言うほど簡単ではない。
心に根付いた蔓は太くて丈夫で足掻いたところで現状維持がやっとだった。
それを未空が望んでるってこと?
自分だって罪を背負って足掻いてるのに?
……理解出来ない。
「それがどんなに難しいことかお前なら分かるはずだ」
「………」
「不思議だよな。壊すのは簡単なのに元に戻すのは難しいなんて」
「……それは、俺に言ってる?」
「かもな。お前はあの日から少しずつ壊れていったから…」
「、」
その言葉に思わず息を飲んだ。
頼稀が言う“あの日”が何を指しているのか容易に想像出来た。
「育ての両親を亡くし悲しみに打ち拉がれるお前に奴等は追い打ちを掛けるようにお前の存在そのものを否定した。その結果、お前は他人に絶望し自分すらも信じられなくなった…」
……ああ、やっぱり。
「あの日をきっかけにお前は変わった。裏切りを恐れ、馴れ合いを拒み、そして独りでいることを望んだ」
「………」
「でも俺はそれでもいいと思った。もう二度とお前の心が傷付かなければ…」
頼稀はどこまで知ってるんだろう。
それは俺が“___”と呼ばれるずっと前の話なのに。
でも何か大切なことを忘れている気がする。
歪なピースが俺の記憶を妨げていた。
「お前と未空はどこか似ている」
「似てる?」
俺と、未空が?
「だから未空はお前を放って置けないんだ。過去の自分を見ているようで思うことがあるんだろう」
「未空の、過去…」
「詳しいことは本人に聞けよ。俺も本人から聞いたわけじゃねぇしな」
「……聞けるかよ」
他人の過去に土足で踏み込めるほど俺は図太くないし無神経でもない。
もし俺が未空の立場だったら無断で境界線をぶち破ることは決して許さない。
「未空は、俺に変わって欲しいのかな…」
「正確には分からない。でもお前のひん曲がった性格をどうにかして修正しようと躍起になってるのは確かだ」
「え、俺ひん曲がってんの?」
「それだけじゃねぇよ。卑屈で意地っ張りで口が悪くてその上自分を蔑ろにする自己犠牲主義の持ち主と来た」
「最悪じゃん」
そんな風に思われてたんだ…。
まあ、性格悪いのは認めるが。
「……俺って、そんな分かり易い?」
「ああ」
「即答かよ」
「顔に出てんだよ」
「まさか」
「鏡見ろよ」
いや、それ大分失礼だからね。
よくそれで俺の口の悪さを非難出来たな。
「お前に自覚があるか知らないがお前にはいくつかのNGワードがある。それを無闇に触れようもんならお前はその人間を容赦なく拒絶する。まるで猫のように他人から差し出された手を見て見ぬふりして背を向ける。決して自分からその手を取らない」
「………」
「でもお前は一度だけその手を掴んだ」
ああ、本当に…、
「それが、―――高屋公平だった」
どこまで知ってんだか。