歪んだ月が愛しくて1



尊Side





「少し意外でした」



カチャと、カップをソーサーに置いたタイミングで九澄が話し掛けて来た。



「何のことだ?」



九澄の言いたいことは分かっている。
分かっているからこそ素直に答えてやるつもりはなかった。



「貴方が立夏くんを大人しく帰したことですよ。てっきり未空が拗ねた理由を教えて差し上げると思いましたが」



九澄は澄ました顔で自分のカップに口を付ける。



「俺が教えたところでどうにもなんねぇだろう…」



『……そんなことないよ。ただ頼る必要がなかっただけ』



未空が拗ねた理由は単純だ。
要は立夏の性格に問題がある。
未空から教室での話を聞いて少しは自己犠牲主義が改善されたと思ったが、自分が怪我してそれを平然とした顔で受け止めているようでは何も変わっていないのと同じだ。



「自分で気付かないと意味ねぇんだよ」



いくら他人が首を突っ込んだところで本人が自覚しなければ何も変わらない。
だからと言って他人に言われて直るようなら端から心配なんてしないがな。
斯く言う俺も他人のことに首突っ込むつもりは毛頭なかったがあれだけきっちり引かれた境界線を見せられたらそんな気は一気に失せた。



「そうですね…」

「お前も分かってるくせに一々言わせるな」

「いくら僕でも貴方の全てを理解することは出来ませんよ。僕は未空じゃありませんから」

「求めてねぇよ」

「求められても困りますが」

「減らず口が」

「貴方にだけは言われたくありませんよ。本当未空が貴方に似なくて良かったですね」

「……表面上はな」

「確かに未空の根底にあるのは貴方への憧憬の情。貴方の後ろ姿を見て育ったようなものですからね」

「知るか」

「今頃未空達は何しているんでしょうね。作戦会議でもしているんでしょうか、立夏くん更生の」

「くだらねぇ」

「僕も混ざって来ようかな。あ、尊も行きます?」

「誰が行くか」



九澄の話を適当に聞き流しながら煙草に火を点けて煙を吐き出す。
吐き出した紫煙が開けっ放しの窓の向こうへと消えていく。

立夏が生徒会に入ってから煙草を吸う時は窓を開けるようになった。
立夏に気を遣っているのか、と問われたら否定は出来ない。
いくら立夏が喫煙者であってもそれを良しとしない姿勢を見せた以上、立夏に余計な煙を浴びせたくはなかった。
ましてやあんな理由なら尚更だ。


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