歪んだ月が愛しくて1
ひび
立夏Side
イライラと、ムカムカ。
今の感情を表すとしたら正にそれだ。
「どう言うつもりだよっ!?」
理事長室に辿り着くなりドアを蹴破って侵入する。
そこにいたのは数週間前には確かにいなかったはずの人物が長い足をローテーブルの上に放り出してソファーで寛いでいた。
「……遅ぇよ」
「は?」
まさかの第一声。
別に何も期待していなかったが腹立たしいことこの上ない。
「何だ、また迷子になってたのか?」
「……相変わらず嫌味健在だな」
「褒め言葉か?」
「頭可笑しいんじゃねぇの」
不意に文月さんが溜息を吐く。
「お前こそ相変わらず口悪ぃな。それにチビだし」
カッチーン。
人が気にしてることを無遠慮に言い放つ目の前の男はデリカシーの欠片もないのか?
若しくは俺を怒らせるために態と言ってるのだろうか?
「煩ぇ!これから伸びんだよ!」
「そう言って何年経つ?中2の頃から変わってねぇぞ」
「大きなお世話だ!てかあの放送は何なんだよ!?アンタ俺との約束忘れてんだろう!?」
「何でかい声出してんだよ。生理か?」
「アンタな…っ」
「俺様がいつ約束を破った?俺様はただお前を名指しで呼び出しただけだ。それにああでも言わなきゃ適当な理由を付けて無視するつもりだっただろう?」
「当たり前だ!」
誰が好き好んでこんなところに来るものか。
文月さんとは必要最低限の会話しかしたく……いや、寧ろ一言も喋りたくない。顔も見たくない。
しかもどの口が約束を破ってないだと?あんな放送されたら全校生徒に俺と文月さんの関係を公言したようなものじゃないか。
「電話に出ないお前が悪い」
「そ、れは…、だからってあんなみっともねぇ放送してんじゃねぇよ!」
それでなくても親衛隊のせいで注目されて嫌って思いをしてるのに文月さんのせいでまた振り出しに戻ってしまった。
会長達にも文月さんとの関係はまだ話していないのに…。
「兎に角そんなとこに突っ立ってないで座れよ。茶でも飲むか?お前の好きなコーヒーも用意してあるぞ。生憎哀は留守にしているから今日は特別に俺様が淹れてやる」
「いらねぇよ。帰る」
「待てよ」
その声と同時に腕を引かれてバランスを崩す。
受け身も取らず後ろに倒れ込むような形になってもどこにも痛みを感じない。それどころか温かい。まさかと思い恐る恐る振り返ると何故か文月さんの膝の上にすっぽりと収まっていた。
「嫌がる割には随分と積極的だな」
「は、離せ!近ぇんだよ!」
「離さねぇよ。正に飛んで火に入る夏の虫だな」
「誰が虫だ!」
「バーカ、ことわざくらい覚えとけよ。これだからお頭の弱い奴は理解力がなくて疲れる」
「バカバカ言うな!いい加減離せ!」
「離して欲しきゃ一旦落ち着け」
「アンタが離せば落ち着くんだよ!」
そう言うと文月さんはムスッとした表情を浮かべながらも渋々俺を閉じ込める腕の力を緩めた。
それでも俺が席を立つと文月さんは「ここにいろ」と言って腕を離してくれなかった。
「……何、この絵柄?」
「離してやったんだから文句言うな」
だからってソファーに並んで座ることないじゃん。