歪んだ月が愛しくて1
「何故俺様の言うことが聞けない?」
「アンタに従う義理はない」
「お前を保護してやったのは俺様だろうが」
「保護だ?恩着せがましいこと言ってんじゃねぇよ。アンタは俺を保護したんじゃない、隠したんだ。俺が…っ」
自分で言ったくせに次の言葉が出て来ない。
文月さんの前で情けない姿は見せたくないのに自分自身を保つことで精一杯だった。
『―――死神っ!』
「、」
頭が痛い。
嫌なことを思い出したせいで記憶の蓋が緩んだのかもしれない。最悪だ。
「俺様は生徒会に入るなと言ったんじゃねぇ、関わるなと言ったんだ。お前はそんな簡単なことも守れねぇのか?」
「……やけに生徒会に拘ってるみたいだけど、生徒会に入ったことがそんなに気に入らないわけ?」
「ああ、気に入らねぇな。テメーで育てて来たもんを横から掻っ攫われるのはな」
「アンタに育てられた覚えはない」
「それでも生徒会は許さねぇ」
「………」
文月さんのこんな顔、公平の時以来だ。
あの日も今みたいに…。
『―――こんなところにいたとはな。手間取らせやがって』
『ま、待って!俺はここでアイツを…っ』
『お前がここにいて何になる?ここにいれば友達の怪我が治るのか?』
『それは…』
『お前の居場所はそこじゃない。お前は鏡ノ院家の人間だ』
「勘違いするな。生徒会はお前の居場所じゃない」
「、」
ハッと、その言葉で我に返った。
蓋をしていたはずのあの日の感情が蘇る。
「……居場所?笑わせんな」
抑えられない感情。
いつもいつも何でこの人は俺の琴線に無闇に触れて来るのだろうか。
「そんなの初めからどこにもねぇんだよ」
生徒会だけじゃない。
兄ちゃん達がいるあの家にも、公平のところにも。
「どこにも…、」
「………」
文月さんに言われるまでもない。
自分の居場所がここではないことはちゃんと分かってる。
これでも自分の立場は理解してるつもりだ。勘違いなんてしていない。
「懐かしいな…」
「は?」
「お前のそのグレーの瞳に俺様が映ってる」
「……それが?」
……ダメだ。
ここで逸らしたら俺の負けだ。
「お前は昔から俺様を嫌っていたな」
「………」
スッと、徐に文月さんの手が俺の頬に伸びる。
「触るな」
触れられる寸前、俺の制止の声に文月さんの動きがピタッと止まった。
「……俺が憎いか?」
憎い?
「俺を、恨んでいるのか?」
恨む?
文月さんは再び手を伸ばして俺の左手を取ると血が滲む掌にそっと唇を寄せた。まるで壊れ物を扱うような丁寧で優しい仕草。
でも、もう騙されない。
「当たり前だ」
パシッと、文月さんの手を振り払い睨み付けた。