歪んだ月が愛しくて1
「憎い?恨む?そんなの決まってんだろう。くだらねぇこと聞くんじゃねぇよ」
あの日を思い出すといつもそこには文月さんがいた。
育ての両親を亡くし、鏡ノ院家の人間に「お前のせいだ」と罵倒され迫害される中、文月さんは何食わぬ顔で俺を見下ろしていた。まるで自分には関係ないと言わんばかりの無慈悲で冷酷な瞳で。
「……結局、アンタも同じだ」
「同じ?」
「アンタもあの人達と同じだ。俺が父さんと母さんの本当の子供じゃないから。俺だけが…っ」
ナ カ マ ハ ズ レ
「リツ…」
不意に文月さんが俺の名前を呼ぶ。
「……やめろよ」
そんな風に呼ぶな。やめろ。呼ばれたくない。
だってそれは俺が幸せだったことの証だから。今更そんなもの思い出させないでくれ。
「俺はアンタが嫌いだ」
時々、文月さんが分からなくなる。
俺のことが嫌いなくせにたまに優しい声で俺の名前を呼ぶ。
これがあるから文月さんを拒絶しきれない。
もしかしたらまたあの頃のように笑ってくれるかもしれない。
そう思ってしまうのは俺が過去に囚われているせいだ。
「……そうか」
そして勝手に期待して。勝手に傷付いて。
「それは光栄だな」
ほらね。
コイツはそう言う奴だ。
「本性出しやがったな、このサディスト野郎」
「今更だろう」
ニヤニヤと愉しそうに笑みを零す、文月さん。
「……確かに今更だな」
それで文月さんに対する何かが変わるわけじゃないのに何を期待してんだか…。自分でもよく分からない。
邪魔な感情は切り捨てろ。それを文月さんが教えてくれた。だから俺は何も期待しない。この人に関しては特に。
「俺…アンタのこと心底嫌いだけど、それはアンタも同じだろう」
「………」
「俺が嫌がることしてそんなに楽しいわけ?」
まあ、文月さんの場合は俺の邪魔さえ出来ればそれで満足なんだろうが。
「俺の邪魔すんなよ。兄ちゃんのことも公平のことも生徒会のことだってアンタには一切関係ないことだろう」
これは俺の問題だ。
誰に指図されたわけでもない、俺が自分で決めたことだ。
この想いと決別することも、あの家を出たことも、公平の元から去ったことも、生徒会に入ったことも…。
「なら聞くが、お前は何故生徒会に入った?」
「は?何故って…」
「単純なお前のことだ。どうせ相手のくだらねぇ挑発に引っ掛かって上手く乗せられたんだろう?」
「………」
言い返せなかった。
まるで一部始終を見ていたかの如く文月さんの予想は的中していた。