歪んだ月が愛しくて1
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私立聖楓学園高等部の中心地に堂々と佇む、中央棟。
この建物は金色の証を持つもの以外の入室を固く禁じており、一般生徒は迷子を装って足を踏み入れることすら叶わない魔窟として周知されている。
その5階のフロアを占拠する集団を人々は敬称の意味を込めて“覇王”と呼んでいた。
「転入生?」
雑誌から顔を上げた朱髪の男は気怠るそうに上半身を起こす。
「ああ、今日でしたか」
同様にノートパソコンを操作する灰髪の男も手を止めて大地色の髪の少年―――未空に視線を向けた。
「うわっ、テンションひっくー。2人共あんなに楽しみにしてたくせに」
ドカッと、未空はソファーに深く腰を下ろす。
その手には未開封のペットボトルが握られていた。
「それはお前も同じだろう。てか一番盛り上がってたのもお前じゃねぇか」
「何と言っても特例ですからね。気になるなって方が無理な話です」
「その割には反応イマイチ。つまんねぇじゃん」
「お前が無駄にテンション高ぇんだよ。遠足前のガキかっつーの」
「だって楽しいんだもん」
「楽しい?」
灰髪の男は首を傾げる。
その反応は朱髪の男も同じだった。
「……転入生、当たりかもよ」
2人は未空の言葉に目を見開いた。
それは誰よりも心に壁を作っている未空から想像も出来ない言葉だった。
「会いたい?」
愉しいそうな表情。
まるで子共のように無邪気で、無垢で。
「紹介してくれるわけ?」
「ま、気が向いたら会わせてあげるよ」
残酷な笑み。
「ハッ、猿のくせに独り占めかよ」
「それは興味深いですね」
そして彼等もまた天使の顔をした悪魔のように無慈悲で残酷で、人の心なんてこれっぽっちも理解しない……いや、理解出来ない悲しい獣達だった。