歪んだ月が愛しくて1
会長が俺の過去を知っている。
やっぱり文月さんが言ったことは本当だった。
「なん、で…」
聞きたいことは沢山あるのに頭が追い付かない。
そんな俺の心情を察したかのように会長は静かに話し始めた。
「お前が鏡ノ院家と親戚関係にあるのは知ってる。勿論血が繋がっていないこともな」
「、」
ああ、これでもう何度目だろう。
あの日の光景が瞼の裏に過ぎる度に大切なものを繰り返し失っていく。
そんな喪失感がガラガラと音を立ててすぐそこまで迫って来ていた。
「生まれてすぐ藤岡家に養子として迎えられたお前は5年前に育ての両親を事故で亡くして以来、血の繋がらない義兄弟3人で暮らしながら社会人の長男の稼ぎで生計を立てて生活していた。金銭的余裕がないにも関わらずお前が聖学に入った理由はそこにいる鏡ノ院が絡んでるんだろう」
「ハッ、ご名答」
バキバキと、蓋をしたはずの記憶にヒビが入る。
『―――じゃあ行くけど、本当に大丈夫か?』
『うん、平気だよ』
『無理してはいけないよ。辛くなったらチサにちゃんと言ってね』
『はーい』
『チサ、リツのことは任せましたよ』
『はい。父さんと母さんも気を付けて』
『俺、兄ちゃんとカナとちゃんと待ってるからお仕事頑張ってね』
『じゃあ良い子にして待ってたら美味いもんいっぱい買って来てやるからな』
『やったぁ!』
『では行って来ます』
『いってらっしゃい!早く帰って来てね!』
「な、で…」
蘇る、5年前のあの光景。
今思えばあれはカウントダウンだった。
『俺、外で待ってるね!』
『あ、リツ待って…』
俺が、俺でなくなるまでの。
ああ、頭が痛い。
激しい頭痛に眩暈がする。
あの日のことを思い出そうとするといつもそう。
まるで俺の頭の中にいる誰かが「思い出すな」と訴えているかのようだ。
「何で…っ」
下唇を噛み締めて涙を堪える。
あの頃のことを思い出すとついやってしまう俺の癖。
……嫌だ。もう嫌だ。
頭の中がぐちゃぐちゃで、呼吸が苦しい。
ああ、もう一層のこと…、
コ ワ レ テ シ マ イ タ イ