歪んだ月が愛しくて1
感覚で分かる。
ああ、本当に落ちてるんだって。
自分のことなのにまるで他人事のようだ。
(でもこの感じ、昔どこかで…)
……ダメだ。思い出せない。
思い出せないことがこんなにも苦しいなんてあの頃は想像もしてなかった。
苦しいならこの命を手放して仕舞えばいい。
どうしてそんな簡単なこと今まで忘れてたんだろう。
全てを放り出して逃げたい。
この命を手放して楽になりたい、のに…、
―――シロ。
―――シロ、さん。
何かが俺を引き止める。
それが何なのか、誰なのか、よく分からないけど。
―――立夏。
目が眩むほどのキラキラした光。
その光に、その声に、導かれるように手を伸ばす。
でも何も掴めない。
誰にも掴んでもらえない。
俺は何を掴みたかったんだろう。
それとも誰かに掴んでもらいたかったのだろうか。
……でも、もう遅い。
空を切った俺の手が虚しく曲線を描く
―――はずだった。
「立夏ぁああああ!!」
「っ!?」
俺の身体が宙に浮いた瞬間、会長は俺が伸ばした右手を掴んで自身の元に引き寄せて俺の身体を抱え込むように階段下に落下した。
その衝撃で一瞬目を瞑ったが予想していた以上の痛みが走ることはなかった。
それもそのはずですぐさま俺を庇うように階段から落ちた会長のことを思い出して恐怖に駆られた。
「会長っ!?」
何度呼び掛けても応答がない。
ピクリとも反応しない。
「会長!会長っ!」
嫌だ。嫌だ。
起きてよ。頼むから目を開けてくれよ。
『…ごめん、シロ……』
もう何も失いたくないんだよっ!
「会長ぉおおお!!」
ピクッと、会長の指先が微かに反応した。
「……煩ぇな」