歪んだ月が愛しくて1



「死ぬのは自由だ。いつだって逃げることも出来る。例えお前が死んだところで世界は何も変わらない」



……そんなの、知ってるよ。

この世界が優しくないことはあの日嫌ってほど思い知らされた。



それなのに、何で…、



「だがお前が生きて変わるものもある」

「っ、」



何で、そんなこと言うんだよ。



頭の中で警報が鳴っている。

期待するな、勘違いするなって。



「何で…、」



分かってるよ。これ以上彼等と関われば自分で自分の首を絞めることになるって。
もう抜け出せないところギリギリのラインなのに、これ以上深入りしちゃダメだってちゃんと分かってるのに。



「何で俺なんかに構うんだよ!俺が死のうが生きようがアンタには関係ねぇだろう!中途半端な優しさなんて見せんなよ!反吐が出んだよ!」

「………」



一度口に出してしまえば止まらない。

俺は再び会長の手を振り払って距離を取る。



「とっとと見捨てろよっ、こんな疫病神なんか!」



これが無意味な八つ当たりだと言う自覚はある。



「こんな訳分かんない奴もう生徒会には用済みだろう!俺が文月さんの汚点だってことももう分かってんだろう!だったらもう俺は必要ねぇだろう!」



でも止まらない。



「それなのに、何で今更気付かされなきゃいけねぇんだよ…。何でこんな俺のことを“普通”とか言えるんだよ…っ」



止まってくれない。



「もう“死神”でいいんだよ、“普通”じゃなくて良かったんだよ…。もう何も期待するつもりなんてなかったんだ…」



もうあんな虚しい思いも、大切な人を失う悲しみも、絶望感も、味わいたくなかった。

それだけだったのに。



「……アンタ、達のせいだ」



頬に伝うものを掌で隠す。
こんなみっともない姿彼等だけには見られたくなかったのに、受け止めきれない雫が手から腕に伝って床を濡らす。



「アンタ達が俺に構うから…。最初は面白半分でこっちに踏み込んで来たくせに、大切なんて言うから…。だから、俺の大切なものが、増えちゃったんだ…っ」



……ああ、そうだよ。



大切だった。

彼等のことも、彼等と過ごした日々も。



本当はずっと前から気付いていた。矛盾している自分の考えに。
独りでいたいと言いながら皆と一緒にいることを望んで。離れなくちゃいけないと思っていたくせにいざとなるとその温かさが恋しくて手放せなくなって。



でも認めたくなかった。



だから必死にもがいて、足掻いて。



だって認めてしまったら最後、求めずにはいられないと分かっていたから。



「頼むから、もう…」



でも、もう嫌なんだ。

大切だから…、一緒にいたいからって理由だけで自分の気持ちを押し付けるのは。



あの日のように大切な人を失うくらいなら俺はこの気持ちを抱えたまま―――。



「勘違い、させないで…っ」



皆の前から、いなくなるよ。


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