歪んだ月が愛しくて1



「そう睨むなって。余計なことは言ってねぇよ」

「………」

「本当だって。後のことはこっちに任せろって言っただけだ」

「……それを信じろと?」

「事実を言ったまでだ。悪いようにはしねぇよ」

「それこそ信用出来るか」

「相変わらず警戒心強ぇな。野良猫かよ」



野良(・・)猫、ね…。



「嫌味?」

「そう思うか?」



そうとしか思えない。

ニヤニヤと憎たらしい笑みがその証拠だろう。



「アンタと無駄話するつもりはない」

「無駄話じゃねぇだろう、お前の将来のことなんだから」

「俺のことなら尚更アンタには関係ないと思うけど」

「……いい加減その他人行儀な態度は止めたらどうだ?」

「ハッ」



乾いた笑みが漏れる。



他人行儀?

実際他人のくせに何言ってんだか。



「無駄話する気はないって言っただろう。用件がそれだけなら俺は帰る」



そう言うと文月さんは諦めたように溜息を吐いた。



「帰すかよ。本題はこっからだ」



ならさっさと言え。
無駄話は勿論のこと文月さんと話したくないと言うのは紛れもない俺の本心だ。
出来ることなら今すぐにでもこの場から立ち去りたい。
そのくらい俺にとって鏡ノ院文月と言う人物は嫌厭する相手だった。



「お前が前回もこれを白紙で出しているのは分かってる。どう言うつもりか説明してもらおうか?」



何をどうやって調べたのか知らないが余計なことをしてくれたものだ。



「どうもこうもない。出す必要がないから出さなかっただけ」



他人にどうこう言われる筋合いはない。
ましてや文月さんなんかに口出されたくない。



もう鏡ノ院に縛られるの御免だ。



「俺、高校行くつもりないから」



本当は行かないんじゃなくて行けないんだけど。
その理由はいくつかあるが、一番の理由は進学するための出席日数が足りないせいだった。



「就職する」



身から出た錆だから後悔はしてない。

後悔なんてする資格もない。



「だからあの家からは…「就職はさせない」



そんな俺の心境を知ってか知らずか、文月さんは真剣な目付きではっきりと断言した。



「は、」

「お前にはここに通ってもらう」


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