歪んだ月が愛しくて1
渡されたのはある高校のパンフレットだった。
「聖楓学園…」
「お前には春からそこに通ってもらう」
「……アンタ、俺をバカにしてんの?」
「何のことだ?」
いくら俺がバカでも聖楓の名前くらい知ってる。
私立聖楓学園。
とある山奥にある幼稚舎から大学まで一貫教育を行うエスカレーター式の伝統ある名門進学校。
長年財界をはじめ各界に多くの実力者を輩出しており、家柄・財力・学力に秀でた選ばれし者しか入学出来ないと言われている超金持ち学校だ。
そんなところに何で俺が…。
「……俺、働くって言ったんだけど」
「就職はさせないと言ったはずだ」
「就職させないから進学しろって?ふざけんなよ。俺がアンタの言うことに素直に従うと思ってんの?」
「従わなければ従わせるまでだ」
「どうやって?」
「お前の就職先に圧掛けて潰す」
「……は?」
その言葉に耳を疑った。
「アンタ、何言って…」
「お前なら分かるよな、俺様の性格」
ニヤリと傲慢な笑みを浮かべる、文月さん。
ああ、この顔は本気だ。
「………最悪」
「そりゃどうも」
文月さんならやりかねない。
一度言ったことはどんな手を使ってでも必ず実行する。
例えそれで多くの犠牲を払ったとしても、この男は自分の欲望に忠実だから他人を思いやる気持ちなんてこれっぽっちも持っていないのだ。勿論それは俺に対しても。
何よりこの男は自分の思い通りにならないことが大嫌いな超絶我儘お坊ちゃんだからどんなことをしてでも俺に進学させようとするだろう。
でも俺は…、
「就職はしないにしても聖楓には…」
「却下」
最後まで聞けよ。
「そもそも無理だろう、お前の学力じゃ」
「喧嘩売ってんの?」
そんなこと文月さんに言われなくても自覚済みだ。
こっちは何年まともに勉強してないと思ってんだよ。
「違ぇよ。行く宛てのないお前のために俺様が特別に用意してやるって言ってんだよ」
「用意?」
「幸い聖楓の理事長はこの俺様だ。出来の悪い甥っ子を入学させるのなんてわけねぇんだよ」
鏡ノ院グループ総帥の実子で現役幹部役員の文月さんは学校関連の運営を任されている。
文月さんの力を持ってすれば俺を入学させることは簡単かも知れないが、だからと言ってそう簡単に納得出来るはずがない。
「冗談。誰がそんなことしてまで入るかよ」
文月さんだけには頼りたくない。
性格最悪の文月さんのことだ。無闇に借りなんて作った日にはとんでもない見返りを要求されかねない。
「お前はそうでもチサはどうかな」
「、」
そんな俺の思考を読み取ったかのように文月さんはタイミング良くあの人の名前を口にした。
「アイツはお前に直接は言わないが本当は高校に行って欲しいと思ってる。まともに中学行かねぇで散々チサに心配掛けたくせにまた心配掛けるつもりか?アイツそのうち心労でぶっ倒れんぞ」
「………」
文月さんは分かってるんだ。
俺があの人に逆らえないことを。