歪んだ月が愛しくて1
「自分以外の人間に対して期待してしまうのは人間として当然の感情ではないでしょうか。少なくとも僕はそれが悪いことだとは思えません。大なり小なり僕だって他人に期待していますから」
穏やかな口調が俺の凝り固まった思考を解そうとしているのが分かる。
安っぽい同情なんかはいらない。先程までの俺なら間違いなくそう言って反発していただろう。
「立夏くんが僕に一歩踏み込んでくれた時、本当は少し怖かったんです」
でも不思議と反発する気にはなれなかった。
九澄先輩の人柄故か、それとも彼等と過ごした日々が俺を変えたのか。
……いや、間違いなく変わった。
「でも踏み込んで欲しいと思っていたのも事実です。僕も未空同様期待していたんです。立夏くんならこんな僕を受け入れてくれるんじゃないかと」
「九澄、先輩…」
ただ彼等は誤解している。
俺はそんな大それた人間じゃない。大した力もないし誇れる長所だってない。
ましてや“死神”の俺は彼等にとってマイナスの存在のはずだ。期待される要素なんてどこにもないのに。
「独りじゃないのは立夏くんも一緒ですよ」
「、」
やめてよ。
そんなこと言わないでよ。
「りっちゃんが誰だって関係ねぇよ」
だって俺はそんな風に言ってもらえる人間じゃない。
「一緒にいたいって思うのは過去じゃねぇのよ。今俺達の目の前にいるりっちゃんだから一緒にいたいって思うんだろう?」
自分善がりで身勝手な最低な人間なのに。
「俺達のこと、見縊らないでよ」
ニカッと自信満々な笑みを浮かべる、覇王3人。
憎たらしくも頼もしい表情に全てを投げ出して縋ってしまいたかった。
ああ、この感覚を覚えてる。
こんな俺にもかつて仲間と言ってくれた人達がいた。とても大切でかけがえのない存在。
でも俺はそんな大切な彼等から逃げた。
俺のせいで公平をあんな目に合わせてしまったのに何も出来ない無力な自分が惨めで、本当はかつての自分を蔑む言葉を都合良く今に置き換えてただ逃げていただけだったんだ。自分が傍にいると皆が不幸になるとかそんな尤もらしい理由だけじゃない。もっと自分本位な理由だ。
「……ほんと、に?」
会長の言う通りだ。俺は目の前の現実から目を背けて逃げていただけだった。あの頃も、そして今も…。
いつか失う恐怖に怯えながら彼等に全てを曝け出して縋ることが怖い。
俺のせいで公平を傷付けてしまった時の絶望感と喪失感が今でも忘れられない。あんな思いをするくらいなら何も望まない、ずっと独りで生きて行くと誓った言葉に嘘はない。
「え…、」
「立夏、くん…」
「っ!?」
それなのに…、
「勘違いしても、いいのかよ…っ」
目の前の彼等に微かな希望を抱いて声を荒げる。
俺は弱い人間だから自分自身の恐怖に打ち勝つはまだ出来ない。正直向かい合うことだけで精一杯だ。
そのせいで自分勝手な理由から何度も何度も突き離したけど本当は…、
「勘違いなんかじゃねぇんだよ」
本当は誰よりも受け入れて欲しかったんだ。