歪んだ月が愛しくて1
「かいちょ、俺…、本当は…っ」
抱き締められていた腕の力が弱まって至近距離で見つめ合う。
鋭く鈍い光を放つ黒曜石から目を逸らせない。
「言えよ」
不意に会長の大きな手が俺の方に伸びて来て無遠慮に頬を抓った。
「俺等が聞きたいのはお前の本心だ」
頬に残る微かな痛みに夢でないことを知らされた。
『つまりママのところには帰らねぇと?』
きっかけは単純だった。
『男に二言はねぇ。今度は俺の意志で生徒会に入る』
コケにされたのが悔しくて絶対に見返してやろうと思って生徒会に入った。
それを意地と言われてしまえば否定することは出来ないが、多分それだけじゃなかった。
『そんなことよりも立夏くんが無事で本当に良かったです』
『だな。心配したんだぜ』
彼等の言葉が俺を過去の幻想に引き摺り込んだ。
『迷惑なんかじゃないよ!ただリカが心配だったの!リカは俺達の仲間なんだから!』
忘れようとした温もりが蘇るのにそう時間は掛からなかった。
『お前が誰であろうと、喧嘩が強かろうと関係ない』
不器用な優しさに触れて気付いた。
無性に胸を締め付けるものの正体に。
『それがお前なんだろう』
もう二度と手に入らないと思っていた。
また失うくらいなら何も望まないと決めていたのに。
それなのに俺はもう一度願ってしまったんだ。
「俺は、ここにいたい」
また失うかもしれない、儚いものを。