歪んだ月が愛しくて1
俺の頬に触れる会長の手にそっと自分の手を添える。
「……それが、お前の答えか?」
「はい。俺はまだ皆と一緒にいたい」
「まだ、ね…。まあ及第点だな。だが自分で選んだからには泣いて喚いても逃がさねぇぞ」
「泣かねぇよ。男に二言はないって言わなかったっけ?」
「フッ、そうだったな」
「それに…」
グッと喉に支えた言葉を飲み込む。
「それに?」
徐に会長の大きな手が俺の手を握る。
その続きを急かすような視線に負けてゆっくりと口を動かす。
「……捕まえて、くれるんだろう?」
一瞬、黒曜石が大きく見開かれる。
でもすぐにいつもの顔に戻って口元を緩めた。
「男に二言はねぇからな」
そう言った会長の表情はどこか満足気で柔らかかった。
その表情に安堵している最中すぐ近くで聞こえた第三者の声によって会長の顔付きが一変した。
「なーに格好付けてんだよ。人一倍ヒヤヒヤしてたくせに澄ました顔しやがって」
「……煩ぇ」
「本当素直じゃありませんね」
「てかいつまで手握ってんだよ!離せこのムッツリ!」
「誰がムッツリだ。……おい、何でお前も離れんだよ?」
「え、だって未空が会長と手繋ぎたがってるから…」
「違ぇよ」
「違うよ!俺はリカと手繋ぎたいの!」
「あ、そうなの。別にいいけど」
「えっ、いいの!?やったー!」
「んじゃ俺も」
「僕も仲間に入れて下さいよ」
「え、いや、手は二つしかないので…」
バンッと、突如鼓膜を揺らす大きな音が聞こえた。
音の正体は文月さんが窓を叩いた音だった。
「ここにいたい、だと…?」
文月さんは俺の言葉を繰り返す。
その声と表情から内心穏やかじゃないのはすぐに分かった。
でもそれがどうした。俺には文月さんに言わなきゃいけないことがある。
「俺は生徒会を辞めない」
「ハッ、バカげてる!他人の言葉は信じねぇんじゃなかったのか!?」
「……信じてないよ」
「だったら何で生徒会に拘る!?お前が生徒会でいるメリットは何なんだよ!?」
「メリット?」
文月さんの言葉に首を傾げる。
「……分かんない」
メリットと言われても何を思い浮かばなかった。
「それなら…っ」
「ただ俺が皆といたいってだけじゃダメ?」
「、」
こんな風に自分の想いを言葉にしたのは初めてかもしれない。
頼稀にも同じようなことを言われたが、未だ明確な答えを出せていなかった。
いつだって過去の自分を振り返ることから逃げていた。臆病で弱い自分を守るために。
「リ、ツ…」
……でも、それじゃダメなんだ。
『お前が下を向く必要はない』
だったら俺は―――。
「もう後悔したくないんだ」
自分の本当の気持ちを伝えなくちゃいけない。