歪んだ月が愛しくて1
「全く、あの2人は大人気ないですね」
「理事長なんて10歳も下の尊に容赦ねぇからな」
「それを言うならみーこがやって来たことも相当えげつないと思うけど」
「結局どっちもどっちと言うことですね」
「違いねぇ」
俺は会長と文月さんの間をすり抜けて3人の元に避難した。
「……あの、止めなくていいんですか?」
「あれに巻き込まれろって?りっちゃんもえげつないこと言うねぇ」
「そうは言ってませんよ」
「とばっちりを食うのは死んでも御免です」
「わお、素敵な笑顔ですね〜」
「りっちゃん顔引き攣ってんぞ(笑)」
「でもリカが理事長みたいタイプを好きだとは思わなかったな」
「は?タイプ?」
「だって理事長がリカの初めての人って…」
「あ、あれは…っ」
「あれは?」
「いや、その…、あれはキ、キキ…」
「キ?」
「………キ、スされたんだよ。アイツに、10歳の時…」
「キス?しかも10歳ってことは…」
「生徒会室で話していたのは理事長のことだったんですか」
「つまり理事長がりっちゃんのファーストキスの相手ってことね」
「やめて下さい。改めて言われると気が滅入りそうになる」
「何が滅入るって?」
俺が頭を抱えると頭上から文月さんの声が降って来た。
「紛らわしいこと言ってんじゃねぇよ。アンタのせいで誤解されたらどうしてくれんだよ」
「あ?誤解されたくねぇ相手でもいんのかよ?」
「誰にもされたくねぇよ。俺はホモじゃない」
「ほお、そいつは初耳だな」
「……ニヤニヤすんな」
文月さんの言いたいことは分かっている。
でも文月さんの思い通りになるのが癪で顔を背けた。
「おい」
すると今度は会長の不機嫌そうな声が俺を呼ぶ。
正確に言えば主語がないので本当に俺を呼んだのか分からないが、会長が俺の手首を掴んで文月さんから離そうとしたから必然的に会長と向き合う形となった。
「それだけか?」
「それだけって?」
「だから鏡ノ院にされたのはキスだけかって聞いてんだよ」
「そうですけど…、何度も言わせないで下さい」
こっちは思い出したくもないんだから。
「他には何にもされてないんだな?」
「他って?」
「セックス」
「は…、はぁあああ!?セッ、セセセ…っ!?あるわけねぇだろうが!何バカなこと言ってんだよ!」
「ならいい」
「何がいいの!?」
「良かった!理事長に先越されてなくて!」
「未空まで、意味分かんねぇことを…。てか俺と文月さんに限ってそれはないから」
「何で断言出来るの?」
「その根拠は?」
「だって俺は昔から文月さんのことが大嫌いで、文月だって俺のこと嫌いだし…」
チラッと、文月さんに視線を送る。
それに気付いた文月さんは悪戯な笑みを浮かべて。
「さあな」
この野郎面白がってんな。人の気も知らねぇで…。
会長に誤解されたらどうすんだよ。
……ん?
誤解?
誤解って、何を…、
「そうか」
会長の表情は変わらない。
でも眉間の皺はなくなっていてどこか安堵しているようにも見えた。
見間違いか?