歪んだ月が愛しくて1
「つーわけで」
陽嗣先輩の声に視線を上げると。
「りっちゃんは返さねぇってことでオッケー?」
ニヤニヤと、その視線の先には文月さんがいた。
「白々しいんだよ。初めから返す気なんかなかったくせに」
「そりゃね。うちの王様は端っから手放す気ゼロみたいだし」
その言葉に文月さんは会長を視界に捉えた。
「みーこだけじゃねぇよ。俺だってリカに大切って言われて見す見す手放せるほど優しくねぇもん」
「目的のためならどんな手段も選ばない、それが我々覇王ですから」
「形振り構ってらんねぇのよ、欲しいものを手に入れるためならな」
「今更降りるとか冗談じゃねぇ。どんな理由を並べても手放す気なんざ更々ねぇんだよ」
覇王4人の視線は真っ直ぐに文月さんへと注がれる。
「……分からねぇな」
ボソッと、低い声。
「リツを手元に置いてお前達に何の得がある?リツに執着する理由は何だ?」
その言葉に覇王4人は互いに顔を見合わせて口角を上げた。
言葉に出さなくても理解し合える彼等が少しだけ羨ましい。初めて会った時は彼等のそんな雰囲気が嫌で嫌で仕方なくて、見ていられなくて、情けないくらい嫉妬したことを覚えている。それが今ではこんな風に物事の本質を見極められるようになれた。それだけで彼等と過ごした日々が強烈で尊いものだったと改めて気付かされた。
「得って何?美味しいの?」
「未空、食べ物ではありませんよ」
「てかそのボケ超ベタじゃね?」
でも俺も知りたい。彼等が俺なんかを選んでくれた理由を。
「茶化すな。リツを預けるからにはきちんと…」
「理屈じゃねぇんだよ」
その声が文月さんの言葉を遮った。
低い威圧的な声に誰もが口を閉ざした。
「立夏は、俺等の仲間だ」
焦げるような衝動が突き上げる。
次々と防壁をぶっ壊して俺の内側まで深く深く浸透していく。
諦めていた世界にあの色だけじゃない鮮烈な色が付き始めて、微かな希望がとてつもなく大きなものへと姿を変えてしまった。