歪んだ月が愛しくて1
「……パシリ、の間違いじゃなくて?」
こんなはずじゃなかった。
「何だ、案外根に持つタイプなんだなお前」
「まさか。会長と一緒にしないでよ」
「あ?俺がいつ根に持っ…「はい、ストップ。こう言う時くらい立夏くんを挑発するのは止めましょうね、折角の良い雰囲気が台無しですよ」
「自分からぶち壊すなんて残念な男だねぇ」
「そのままぶっ壊れちゃえ」
「わお、おっかねぇ」
そんな資格、俺にはないって分かってる。
楽しいも、嬉しいも、愛しいも、そんな感情を抱いてはいけなかった。
だってすぐ期待してしまうから。
まだ傍にいてもいいんだと、ここが自分の居場所なんだと錯覚してしまう。
でも所詮はただの錯覚で現実はいつもすぐそこにあった。
卑しくて、醜くて、誰からも必要とされないそんな俺が…。
「ハッ、誰が壊すかよ」
でも彼等はそんな俺を肯定してくれた。
傍にいてもいいと、仲間だと言ってくれた。
「まあ、壊れたらすぐ直すけどね」
「だな」
「案外打たれ強いんですよね僕達って」
こっちの都合なんてお構い無しにあっさりと境界線を越えて来た、彼等。
「帰るぞ、立夏」
もう、認めるしかない。
いくら自分を卑下する言葉で俺自身を否定しても心の底にある感情までは誤魔化しきれない。
どんな終焉が待ち受けようともきっと後悔なんてしない。
「……うんっ」
差し出された手を、俺は掴んだ。
太陽の光に手を伸ばすかのように。
「尊、帰る前に保健室ですよ」
「そうだよ!リカの手当てしないと!」
「お揃いの怪我なんて洒落になんねぇぞ」
「誰がそんなヘマするかよ」
「……怪我人が言っても説得力ないけど」
「「確かに!」」
「テメー等、言わせて置けば…」
「ギャー!みーこがキレたー!」
「何で俺達だけなんだよ!りっちゃんはっ!?」
「煩ぇ!死ね!」
「あははっ、死ねはよくありませんね」
廊下に未空と陽嗣先輩の悲鳴が響いて、九澄先輩の笑い声も重なって、誰もが自然と目を合わせて微笑んだ。
ゆっくりと、その渦の中に歩み寄る。
誰もが太陽を中心に寄り添いいつしかそこが俺の定位置となっていた。
何者にも遮られない黒曜石は優しく細められ強い光を宿したまま真っ直ぐに俺を見つめている。
「おい、早く来い」
「……偉そうに」
「偉そうじゃなくて偉いんだよ」
「ああ、はいはい。そうでしたね〜」
その口元はいつもの意地悪い笑みではなく穏やかに口角を上げていた。