歪んだ月が愛しくて1

覇王






バタバタと、いくつもの足音が地を震わす。

そこに響くのは誰かの叫び声。





『こ…―――っ』



『―――へ…っ!!』





悲痛な声が無意味な謝罪の言葉を繰り返す。
見るに耐えないその姿に、その声に、傍にいた龍は顔を歪める。
男は何度も何度もその名前を叫ぶが、横たわる人物はまるで糸が切れた人形のようにピクリとも動かない。
胸が張り裂けそうな惨状にその場にいた誰もが顔を背けた。



でも、この男は違った。



憤怒、後悔、悲哀。



それらを深紅の瞳に宿したまま目を逸らさなかった。

己の拳に爪が食い込むほど強くきつく握り締めて。





『っあ、ぁ、ぁあ、あ゛あ゛ああああああああ!!』





その声は雨音に掻き消されていく。
まるで天が嘲笑っているかのように無慈悲に。
己の無力さを最悪の結果で思い知らされた彼の頬を濡らしたのは雨か、それとも―――。




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