歪んだ月が愛しくて1



「あのさ、ずっと気になってたことがあるんだけど聞いてもいい?」



そう言って俺に顔を近付けて来たのは希だった。
その顔は珍しく真剣でいつものニヤついた顔じゃなかった。



「え、何…?」

「前に立夏が理事長のこと知ってるって言ってたじゃん。あの話聞いた時は何も思わなかったんだけど、この前理事長が校内放送で立夏のこと呼んでたあれ……、ぶっちゃけただの知り合いじゃないでしょう?」



ギクッ



ちょ、直球だな…。

また答え難い質問をぶつけて来るな。

まあ、あんな放送聞かされたら嫌でも気になるだろうけどさ。



「確かにただの知り合いに“犯す”なんて平気で言わないよね」



でも文月さんのことは出来れば触れて欲しくなかったんだけどな…。



「つまりただの知り合いじゃないってことじゃないの?」

「え、それってまさか…っ」

「も、もしかして立夏くん…、鏡ノ院理事長とそう言う関係なん…っ「やめて。本当それだけはマジ勘弁して」



いくら事実無根とは言えその冗談はマジで笑えない。キツい。てか俺の精神的ダメージが半端ないから。
文月さんと知り合いってだけでも嫌なのにそれ以上の関係があると思われる方が辛過ぎる。耐えられない。
どうにかして文月さんのことを誤魔化したかったけど、こうなった以上本当のことを言った方がまだ…、



「リカと理事長は親戚なんだって」



と思っていた矢先、未空が爆弾を落とした。



いや、まあ、いいけどさ…。

そんなサラッと暴露されると隠してた俺が恥ずかしいじゃん。



「し…、親戚ぃいい!?何それ初耳なんだけど!?」

「あー………うん、ごめん。隠してた」

「じゃ、じゃあ、立夏くんって理事長の…」

「一応文月さんの甥っ子ってことになるのかな。だから当然葵が想像してたような関係じゃないからね、寧ろ俺達仲悪いし」

「へぇ、君があの鏡ノ院の…」

「でも何でそのことを隠してたの?」

「……さっきも言ったけど、俺と文月さんって昔から超仲悪いんだ。昔から俺のやることに口出しては邪魔して来るし、あの放送だって俺に対する嫌がらせだよ。ああ言うことされて悪目立ちしたくなかったから文月さんとの関係を口外しないって約束でここに入学したのに…」

「あんな放送されたら2人は親密な関係って言ってるようなもんだしな」

「だろう。それがあの人の嫌がらせなんだよ」

「マジで嫌いなんだね、理事長のこと」

「当然」



今までのことを考えたら嫌いにならない方がどうかしている。
寧ろ俺に嫌われるためにやってるとしか思えないくらいあの人の嫌がらせはあからさまだ。



「んー…でも理事長はリカのこと大好きそうに見えたけどな…」

「は?」

「ほらよくいるじゃん。好きな子にちょっかい出して逆に嫌われる人って」

「小学生かよ」

「流石に理事長は大人だからそれはないんじゃないかな?」



文月さんが俺のことを、好き…?

あの文月さんが?



……いや、



「そうかな?あの人結構子供っぽいから…「それはないよ」



文月さんは俺のことを嫌っている。

あの日から、ずっと…。



「……有り得ないよ、そんなこと」



『―――助けてよ!』



俺の叫びがあの人に届くことは一生ない。
何度も無視されてその度に絶望して、結局はその繰り返しで俺はあの人に手を伸ばすことを諦めたんだ。
だからもう何も期待しない。文月さんにとって俺はただの邪魔な存在でしかなくて、俺にとっても―――。


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