歪んだ月が愛しくて1



バンッ、と屋上のドアを開ける。
心地良い風が頬を撫でると同時に聞き慣れた声が聞こえて来た。



「久々だな、お前がここに来んの」

「……サボリ魔」



紀田先生は煙草を吹かしながら俺に手を振った。
まるで俺が来ることを予測していたかのような振る舞いに一瞬顔を顰める。



「休憩だよ、休憩」

「物は言いようだね」

「そう言うなって。ここじゃないとお前の本音が聞けねぇだろう」



……やっぱり。



「そんな理由で授業ボイコットしないでよ」



俺のせいみたいじゃん。



「いいんだよ。今はテスト期間中なんだから授業なんて受けてないでテスト勉強だけしてれば」



テスト期間中だから授業しなきゃいけないんだろうが。



「で、お前がここに来た理由はこれか?」



そう言って紀田先生は胸ポケットから煙草を取り出して俺の前にチラつかせた。
当初の目的とは違うが無言で手を出して箱ごと煙草を受け取る。



「前にやった奴はもう残ってねぇのか?」

「いや、まだあるけど」

「何だ、本数減らしてんのか?」

「違うよ」



会長と交わしたあの約束が脳裏に過ぎる。
守るつもりなんて毛頭なかった約束だが、どう言うわけかあの日以来その約束を律儀に守っている自分がいた。
お陰で本数は減ったし屋上に来る回数も少なくなったと言うわけだ。



「それとも、吸う理由がなくなったか?」



きっかけは公平だった。
アイツが自傷気味に吸うもんだから気に入らなくて奪ってやった。それが目的で理由だった。



(でも今は…)



「……かもね」



その言葉で気付いてしまった。

あの頃とは違う理由に。



「でも吸うのな」

「吸わないとは言ってないから」



気付いたところで簡単には止められない。
未だ満たされないものを埋めるかのように有害な煙を身体の中に取り込む。



「で、本当は何でここに来たんだよ?」

「……別に、特に意味はないけど」

「は?俺に会いに来たんじゃねぇのかよ?」

「勘違い」

「何だよ、期待させやがって」



勝手に期待してんじゃねぇよ。


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