歪んだ月が愛しくて1



「そういや、文月とはちゃんと話せたみたいだな」

「あー…」



先日の一件を思い出して両手で顔を覆う。



「思い出したくなかったか?」

「分かってるなら聞かないでよ」



指と指の間から盗み見ると、紀田先生は先生らしかぬ意地悪い笑みを浮かべていた。



「文月の奴かーなりご機嫌な斜めだったぜ。一体何やらかしたんだよ?」

「やらかした前提で話進めるのやめてくれない」

「アイツが機嫌悪くなるのはいつもお前絡みだからな」

「いつも機嫌悪いの間違いじゃなくて?」



そう言うと紀田先生は「分かってねぇな」と苦笑する。



「アイツの機嫌を良くすんのも悪くすんのもお前次第なんだぜ」

「はぁ?」



意味が分からない。



「で、何やったんだよ?」

「だから何もしてないって。ただ…」

「ただ?」

「……噛み付いた」

「は?噛み付いたって…」



「バイオレンスだな…」と困惑する紀田先生。

そう言う噛み付くじゃねぇよ。



「……反抗期、みたいな?」



『俺は、ここにいたい』



初めて自分の想いを言葉にした。



虚勢でも、卑屈でもない。

あれは嘘偽りのない俺の本心だ。



「俺、生徒会でやってくって決めたから」



誰に何と言われようと関係ない。
もう二度と自分の想いに嘘は吐かない。迷わない。
迷うくらいなら自分の心に素直に従おうと決めた。



「だから反抗期」

「……どうやらそれなりの覚悟は出来たみたいだな」



後悔しても構わない。
それが自分で決めたことなら例え後悔したとしてももうあの日のような想いはしないはずだから。



「開き直っただけだよ」



それは紫煙の向こうに曖昧に揺らぐ光のように、俺の中に何かを灯した。


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