歪んだ月が愛しくて1
「随分と嘘が上手くなったな」
「嘘?」
「俺は管理人室の掃除なんて頼んだ覚えはねぇぞ」
屋上で紀田先生と別れた後、自室に戻った俺の元に頼稀が訪ねて来た。
「ああでも言わないと未空が納得しないと思ったからさ」
「確かにな」
理由は分かってる。
それは俺が教室で放ったあの言葉のせいだった。
「で、あれは何に対しての謝罪だ?」
「分かってるくせに」
「………」
長い沈黙が続く。
息苦しさを覚えた俺は頼稀をリビングに招いてソファーに座らせるとすかさずキッチンに逃げてコーヒーを淹れた。
頼稀もコーヒーでいいかな。今度頼稀の好みを聞いてみよう。
2人分のカップを持って頼稀が待ってるリビングに戻ると、頼稀はソファーに座ったまま膝に顔を近付けて俯いていた。
視線だけを俺に向けて両手を身体の中心で固く結ぶ。
「飲む?」
「……貰う」
頼稀にカップを手渡してから俺も空いているスペースに座ってコーヒーを飲む。
そう言えば頼稀はブラックで良かったのかな。ブラック派の会長に影響されてついブラックで渡してしまったが。
「ミルクか砂糖いる?キッチンにあるから…」
俺がキッチンに引き返そうとした時、不意に横から腕を掴まれた。
「それが…」
弱々しい声が聞こえる。
でもその瞳は真っ直ぐに俺を映していた。
「それが、お前の答えなのか?」