歪んだ月が愛しくて1
俺の「ありがとう」に頼稀は何を思ったことだろう。
きっと俺には到底理解出来ないことで、だから俺はそれ以上何も言えなかった。謝罪なんてとてもじゃない。
「俺が信じるのは俺だけ、か…」
(……俺も、信じてみたいよ)
自分が信じられる誰かを。
人じゃなくてもいい。例え自分のことが信じられなくても唯一無二の何を信じることが出来ればそれだけで強くなれる気がするんだ。
ただ神様とやらは論外だ。あんな石像なんかに誰が祈ってやるものか。
「何だそれ?」
「あー…ごめん、ただの独り言。前に会長が言ってたこと何か思い出しちゃって」
「……つまり信じられるのは自分だけってことか」
「多分ね。でも…」
『そんな世界の中で自分が信じられる奴を見つければいい』
「……俺には、ちょっと難しいかも」
会長は見つけたんだ。
こんな世知辛い世界で未空達のことを。
それは何よりもかけがえのない存在に違いない。
俺にとってのアイツ等がそうだったように…。
「お前…」
「………嘘。今のは忘れて」
失言だった。
そんなこと言ったら頼稀が気にするかもしれない。
案の定、頼稀は顰めっ面を崩さない。
「……だから、生徒会に拘るのか?」
失敗したな。
甘えちゃいけないって思ったばかりなのに。
「違うよ。ただ自分のことすら碌に信じられないのに都合良いなと思っただけ」
「そんなことはない。お前はいつも自分自身と戦っていた。誰が何と言おうと俺はそれを知ってる。都合良いわけねぇだろう」
「………」
「お前は自分自身を否定するのが大好きな自虐バカだから同意は求めねぇよ。でもこれだけは覚えてろ。俺はお前のことをお前以上に知ってるんだからな」
そう言われて無意識に口元が緩んだ。
これ以上頼稀に甘えちゃいけない。そう思ったのは本心だ。
「……そっか。じゃあ俺も信じてみようかな」
でも嬉しかったのも本当。
「俺が信じてみたい人を」
本当は自分のことが一番信じられない。
でももう何もしないで諦めないって決めたから。後悔しないようにやってみよう。
「勿論、頼稀のことも」
今はまだ信じられなくても、いつか―――。
「……ドーモ」
「流すなよ」
「お前が急にデレるからだろう」
「普通に会話してただけじゃん」
「(この無自覚野郎…)急にそう言うのやめろ。色んな意味で心臓に悪い。もしあの側近連中に聞かれたらこっちは殺されるだけじゃ済まねぇんだぞ」
「側近?……ああ、アイツ等か。アイツ等はそんなことしねぇよ」
「高屋はな」
「ハクだって優しいよ」
「それはお前限定だ」
「そう?」
やれやれと頭を抱える頼稀が「それでも飼い主かよ」と言ってコーヒーを啜る。
「身内贔屓ってわけじゃないけどアイツ等ってクソが付くくらい優しいと思うよ。性格はちょっとアレだけど」
「だからそれはお前にだけなんだよ。寧ろあのマッドドッグはお前以外の人間をクソだと思ってるぞ」
「まさか」
「信じてねぇな…(あのマッド野郎、どんだけ立夏の前で猫被ってたんだよ)」