歪んだ月が愛しくて1
その音にビクッと肩を震わせて恐る恐る視線を横にずらすと…。
「いい加減にしろ」
案の定、そこには般若のような形相でこちらを睨んでいる頼稀が仁王立ちしていた。
「いつまで玄関先で乳繰り合ってるつもりだ。帰るに帰れねぇんだよ。少しは自重しろ」
「ヒィッ!!」
「お前は…」
あまりの恐ろしさから会長の胸を押し退けて頼稀の元に駆け寄る。
「……お前、俺のこと忘れてただろう?」
「わ、忘れてない!忘れてないよ!ちょっと記憶から外に出掛けてたって言うか…」
「それを忘れてるって言うんだよ!」
「ごめんなさいっ!」
キーンと、頼稀の怒声が耳に響く。
「チッ」
会長は頼稀の存在を認識すると忌々しそうに舌打ちした。
いやいや、舌打ちしたいのはこっちなんだけど。
「アンタも後輩に手出すのやめてもらえませんか?」
「お前には関係ないはずだが?」
「関係あるから言ってんですよ」
「へぇ、どんな?」
「………」
「………」
バチバチと火花を散らす会長と頼稀のやり取りが嫌でも目に入って冷や汗が伝う。
何で2人が睨み合ってるのか知らないが多分原因は俺だ。つまり仲裁に入るのも必然的に俺なわけで…、俺は仕方なく2人の間に割って入った。
「……あ、あの、落ち着いて話しません?平和的解決みたいな」
すると2人は予想外の反応を見せた。
「平和的ね…。まあいいけど」
「え、いいの?」
「言い出した本人が何驚いてんだよ」
「いや、何か意外で…」
「丁度いい機会だしな。俺も神代会長に話したいことがあったし」
「奇遇だな」
……あれ、俺早まった?