歪んだ月が愛しくて1
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
でも次第に沸き上がって来たのは怒りの感情だった。
「……ふざけるなっ」
俺が立夏を弱くしただと?
「言いたい放題言ってんじゃねぇよ!俺が立夏を弱くしたって?ふざけんな!アンタに立夏の何が分かる!?アイツが何を抱えて必死で生きてるか知らねぇくせに…っ。まだ小さいガキが自分の存在そのものを否定されて親殺しの汚名まで着せられたんだぞ!そんなアイツの気持ちがアンタに分かるのかよ!?」
「………」
分かるはずがない。
分かられてたまるもんか。
「その上死神?化け物?本物の化け物は奴等みたいな腐った大人共だ!俺は奴等を許さない!立夏の心に土足で踏み込むもんなら返り討ちにしてやる!二度とアイツを傷付けさせない!そのためなら俺はどんなことでも…っ」
立夏のためならどんなことでもやってやる。
その覚悟を持って俺は立夏の傍にいるんだ。
「アンタには分からない。立夏の闇も、立夏の気持ちも…」
俺達の考えも。
アンタに俺達を理解することは出来ない。
「分かって欲しいのか?」
「、」
途端、何かが喉に詰まった。
「さっきも言ったはずだ。俺は立夏から何も聞いていない。だからアイツの過去に何があったかなんて知らねぇし、お前等の考えを全て理解することは出来ない」
「……だったら、黙って見ていればいい。何もするな。どうせアンタには何も出来ないんだ」
「ならお前には出来るのか?立夏の考えを全て理解してアイツの望みを叶えてやることが。それが本当にアイツのためだと胸を張って言えるのか?」
「は、」
「はっきり言ってやる。お前のそれはただのエゴだ」
「エゴ、だと…」
違う。
「理由が欲しいのか?」
違う。
そんなんじゃない。
「立夏を守る正当な理由が」
「ふ、ざけんな!」
俺の怒声が神代会長の声を掻き消す。
「何がエゴだ!俺には立夏を守る義務が…っ」
「お前がやってることはアイツのためじゃない。自分のためだ」
「、」
言い返せなかった。
思い当たる節が有り過ぎる。
ああ、この人に言われて気付くなんて最悪だ…。
「過去を忘れて生きることが正しい選択だとは限らない。過去に囚われたままでも前を見て歩こうとする奴もいる。現に立夏は俺の手を掴んで自分から一歩踏み込むことを決めた。少し前のアイツなら考えられねぇことだ」
「………」
認めたくはない。でも認めざるを得なかった。
今の立夏はあの頃とは比べ物にならないくらい変わった。
それは立夏にとって良い傾向ではあるが、問題は誰が立夏の心を動かしたかと言うことだ。