歪んだ月が愛しくて1
「それが立夏自身の強さだ」
「立夏の、強さ…」
『藤岡は自分から一歩踏み込むことを決めた。君が思ってるより藤岡はずっと強い奴だよ』
いつかの御手洗の言葉を思い出す。
あの時は素直に頷けなかった言葉が今はすんなりと入って来る。
……ああ、そうだ。
立夏は昔から強かった。
何度絶望してもその度に自分から這い上がって、こっちが心配するくらい健気で真っ直ぐで、いつも他人のために一生懸命な奴だった。
変わることを望んでいなかったのは立夏じゃない。俺だ。
「アンタが俺なら、どうしてたのかな…」
気付くのが遅かったなんて言い訳にもならない。
俺がもっと早く立夏の存在に気付いていたら立夏の心にこれほどまでの闇が巣食うことはなかったかもしれない。
「タラレバの話をして何になる。俺はお前にはなれない。それはお前も一緒だ。考えるだけ無駄なんだよ」
「確かに」
どうかしてるな。
そんなバカげたことを聞くなんて。
「ただ…、立夏を救いたいならまずは自分が救われろ」
「………お、れ?」
やっとのこと絞り出した声は自分のものとは思えないくらいか細くて情けなくて、それ以上の言葉が見つからなかった。
「いつまでも辛気臭ぇ顔してんじゃねぇよ。立夏をどうにかしてぇならまずはお前が手本を見せてやれ」
「………」
『―――同情?』
ずっと、その言葉を否定していた。
何度も自分自身に言い聞かせて「義務」と言う言葉で誤魔化して来た。それでも口から出るのは後悔と懺悔の言葉だけだった。
そんな俺が救われてもいいのだろうか…。立夏を救えなかった俺にそんな資格があるとは思えない。それ以前に俺の憂いを晴らすには立夏自身が幸せになってくれなくては始まらない。つまりそれは全ての根源を断つと言うこと。
「……俺だって、怖いんですよ」
「怖い?」
「拒絶されるのが。真実を話してまた立夏の心を壊したら…」
俺は今度こそ自分自身を許せない。
「……認めたくないけど、アンタ達の影響で立夏は少しずつ変わったよ。幼い頃に味わった絶望を再び繰り返しても尚アイツは今は笑うことが出来ている。それはきっと立夏の傍にアンタ達がいるからだ」
「………」
立夏の心を守るためなら俺はなんだってする。
使えるものは何でも利用してやる。
それが覇王であっても。