歪んだ月が愛しくて1
「初めはアンタ達が邪魔でした。何も知らないくせに立夏の心にズカズカと入り込んで来たアンタ達が。でも本当はただの八つ当たりだったんです。俺が出来なかったことをいとも簡単にやってのけるアンタが殺してやりたいくらい憎かった」
「それで殺されたら堪ったもんじゃねぇな」
「ええ、だから殺しませんよ。その代わり約束して下さい」
「約束?」
それは約束と言う名の期待だ。
「中途半端に見捨てないでくれますか?」
俺の願いを…、俺達の悲願を、この男なら成し遂げることが出来るかもしれない。
「俺の大切な奴を、今度はアンタのやり方で守ってくれますか?」
まさかこの人に託すことになるとはな。
俺としたことが本当にどうかしてる。
でも託してみたいと思った。
立夏の凍てつく心を溶かした、―――覇王に。
彼等なら出来るかもしれない。
もう一度、立夏に本当の笑顔を咲かせることが。
「約束するまでもない」
これは賭けだ。
勝算のない賭けはしない主義だが、もう手段なんか選んでいられない。
綺麗なやり方では俺の欲しいものは手に入りそうにないからな。
「見捨てるくらいなら端っから迎えに行ったりしねぇよ」
ただ、どうせ期待するならこの男に。
立夏が自ら手を伸ばした神代会長に賭けてみたいと思った。
(アイツに当てられたのかもな…)
「なら、任せましたよ」
俺は1人掛けのルームチェアから腰を上げてリビングを出ようとした時、背後から神代会長の声が降って来た。
「どこへ行く?」
「帰ります。言いたいことも聞きたいことも聞けたんで」
「聞きたいこと?」
「こっちの話ですよ」
するとタイミング良く立夏がキッチンから出て来た。
「あれ、頼稀もう帰るの?折角コーヒー淹れたのに…」
「悪いな。勉強会の前に希と飯食って来る。アイツ一緒に食わないと煩ぇし。お前の晩飯は後で届けてやるよ」
「ありがとう。奥さんに宜しく」
「アホ」
俺が立夏の頭に手刀を落とすと、ふと視線を感じた。
この部屋には俺達3人しかいない…、と言うことは案の定神代会長は俺達のやり取りを見て不機嫌そうに眉を顰めていた。
この人、隠す気ないだろう。
「それと神代会長にもう一つ」
「……何だ?」
「もし約束破ったらアンタのこと殺すから」
「………」
「こ、殺すって…。何物騒なこと言ってんだよ。平和的解決したんじゃねぇの?」
「したぜ。それでこれが結論。ですよね?」
「……そうだな。でも言ったはずだ、約束するまでもないとな」
「ならいいですけど。精々俺に殺されないように宜しくお願いしますね」
「お前ももうちょっと視野を広げたらどうだ?そのうち首が回んなくなって自滅すんぞ」
「ハッ、大きなお世話ですよ」