歪んだ月が愛しくて1
「……離して」
「ダーメ。離したら逃げるじゃん」
「当然…「じゃあ絶対離しません!」
そして放課後。
俺は未空に引き摺られながら中央棟の廊下を歩いていた。
床には高級感漂う真紅の絨毯が引かれているせいで歩き難く汚したらどうしようと貧乏性が顔を出す。
「でも良かった。リカが金バッチを持ってて」
俺は未空に倣って1階の正面玄関横に設置された四角い装置に特殊なチップが内蔵された金の校章を翳して入室した。
それから1階の奥にあるエレベーターで5階まで上がり、生徒会室に続く廊下を歩きながらふとした疑問を投げ掛けた。
「金バッチって、これのこと?」
胸に付けた校章を指差す。
よく見たら未空の胸にも同じものが付いていた。
始めから気付くべきだった。未空が金バッチを付けている時点で未空が選ばれた人間だと言うことを。
思い返せば葵や希の校章は銀色のだった。
紀田先生から校章を受け取った時、話半分に聞いていた自分のせいだが逆ギレせずにはいられなかった。
金も銀も大して変わらないだろうが。分かり難いんだよクソ。
「そう。これがないとここに入るのにちょっと面倒だし、アイツ等にはリカのことはまだ内緒にして置きたいんだ」
アイツ等とは他の生徒会メンバーのことだろうか。
生徒会が中央棟を根城にしていると言うことはメンバー全員が金バッチを付けていることになる。
やっぱりやんごとなき家柄なのは間違いなさそうだ。
「ああ、早くアイツ等の驚く顔が見たいな!」
そりゃ驚くだろうよ。
俺、部外者だし。
「あ、そこ曲がったら生徒会室だから」
早っ。
「え、待って。まだ心の準備が…」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ!皆良い奴等だから………多分」
「多分!?」
「皆とは腐れ縁みたいな感じでさ」
え、スルー?
答える気なし?
「ちょっと変わってる奴等だけど悪い奴じゃないのは確かだから安心してよ!」
「変わってるって…」
何サラッと重要なこと言ってんだよ。
そこは聞き流せないから。
「ほら、行こう!」
そう言って未空は俺の腕を強引に引っ張って勢い良く生徒会室の扉を開け放った。
この時、俺はまだ気付いていなかった。
これから訪れる出会いが後に俺に大切なことを気付かせ俺自身の首を絞めることになるとは、夢にも思っていなかった。