歪んだ月が愛しくて1



「では何をそんなに怖がっているんですか?」

「怖がってる?俺が…?」



……違う。



怖がってなんかない。

怖いものなんてもう何も…、



「なーんか複雑なもん抱えてんだな…」



彼等に何が分かると言うのか。
そんな言葉で済ませられるほど簡単なものじゃない。
誰にも理解されなくていい。理解されたいとも思わない。



「それって聖学(うち)に来たのと何か関係あったりして?」



その言葉にグレーの瞳が昏く澱む。
赤の他人の…、しかもついさっき会ったばかりの初対面の人間に穿られる筋合いはない。



「……関係?別にないけど、アンタ達には」



それは背筋が凍るような冷たい声だった。
その瞬間、覇王はふざけた表情を消して静かに目の前の俺を見据えた。
大方俺の出方を窺っているんだろうが、もうこれ以上彼等と話すことは何もないので大人しく退場することにしよう。



ここにいると嫌でも目に付くものがある。
この場所から離れたいと内側から悲鳴が上がる。



「離せ」

「あ…」



未空の手を振り払うとそれを見ていた陽嗣先輩がすかさず未空をフォローする。



「ざーんねん、フラれちまったな」

「……煩い」

「おいおい、何マジで落ちてんだよ?本人がやりたくねぇって言ってんだからしょーがねぇだろう?」

「その台詞、クラスでも散々言われた…」

「未空、無理強いはよくありませんよ」

「………」



彼等の纏う空気が苦手だ。寧ろイライラする。
彼等の言動も時折漂う仲間内の空気も何もかも気に入らない。
それが見当違いな苛立ちだと言うことは分かっている。分かっていてもどうにも収まらない。



かつては自分もそこにいたはずだった。



……でも、もうない。何もない。



だからそんな光景を目の前で見せられて内心穏やかでいられるはずがなかった。



羨ましい。

妬ましい。



ああ、頼むから俺の前から消えてくれ。



「生徒会には入らない。……もう、俺に構わないで」



苛立ちの正体は、半分は嫉妬だった。


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