歪んだ月が愛しくて1
「テメー等どこに目ん玉付けてやがる。あの転入生…、この俺に全然ビビってなかったじゃねぇか。逆に喧嘩売られた気分だ」
異例の転入生は変な奴だ。
実物は噂以上の代物。ある一点(眼鏡)を除けば。
そして俺等の周りにはいないタイプの人種だった。
金と権力に群がるあくどい生き物でも、また恐れながらも軽蔑の眼差しで遠巻きに存在するものとも違う。どちらでもないものを奴に感じた。
何故俺等を恐れない?
俺等以外に怖いものがあると言うのか?
「分かんねぇな…」
虚勢を張っているようには見えなかった。
ただ陽嗣が言うように複雑なものを抱えているのは分かる。
深入りするつもりはないがどうも気になって仕方ない。
分厚いレンズの奥に隠された瞳を暴けば全てを知ることが出来るのだろうか。
(未空のが移ったか…)
前髪を掻き上げて煙草を銜える。
「おっ、珍しく考え事か?」
「珍しくは余計だ」
ふぅ…と吐いた紫煙が頭上を漂う。
そういや煙を嫌がる素振りはなかったな、なんてことをふと思い出す。
「そうか?お前が他人に興味示したのなんて何年ぶりよ?」
「人をぼっちみたいに言うんじゃねぇよ」
俺以外の3人もそれぞれ思うところがあるようで何やら考え込む表情を見せていた。
「未空は彼と同じクラスでしたね?」
「そうだよ。しかも隣の席!」
「彼の周囲で何か変わったことはありませんか?」
「ないと思うけど…。リカ自身が他人を寄せ付けないようにしてるっぽいから特別仲が良い人とかその反対もいないと思うよ。あっ、でも担任の紀田ちゃんはリカのことスゲー気に入ってる感じだった」
「担任ですか…」
「しっかし、りっちゃんが転入して来たのってついこの間のことだろう。何でそんな奴をここに連れて来たんだよ?」
「そんな奴?」
ピクッと、未空は陽嗣の発言に眉を顰める。
「……いくらヨージでもリカを悪く言うのは許さねぇよ」
「許さない?ハッ、何ムキになってんだよ。マジで骨抜きにされてんじゃん、あのヘンテコ眼鏡っ子に」
「悪いかよ」
そんな未空を見てケラケラと笑う陽嗣はいつものペースを崩さない。
「べっつに。ただお前にしては軽率だと思ってな」
「は?軽率?」
「お前が無闇に他人を信用するなんて意外だって言ってんだよ」
「………」
その言葉に一番驚いたのは未空本人だろう。
未空は陽嗣に突き付けられた言葉に目を丸くさせて驚愕の表情を浮かべていた。
……コイツ、あれで無意識かよ。