歪んだ月が愛しくて1



「ところで立夏様は何故こちらにいらしたのですか?まさか迷子…」

「違います」

「失礼致しました。しかし主人に用があるとも思えませんが」

「有り得ません」

「では何故中央棟にいらしたのですか?」

「……何となく」

「そのような理由で主人がいるやもしれないこの棟に自ら足を運ぶとは思えませんが」

「ご尤もです」



流石哀さん、何でもお見通しか。



「理由をお伺いしても宜しいですか?」

「実は…」



俺はここに来るまでの経緯について素直に話した。
生徒会に推薦されたこと、そして覇王と呼ばれるあの4人のことを。



「そうですか。立夏様が生徒会に…」

「笑いたかったらどうぞ」



フォークを口に咥えたままムスッと不貞腐れる。



「笑うなんてとんでもございません。私が一度でも立夏様のことを笑ったことがございましたか?」

「ない、けど…」



寧ろ笑って欲しいくらいだ。
今まで不登校で碌に学校に通ったこともないくせに突然生徒会に推薦されるとかマジでウケる。



「しかし…、何故仙堂様は立夏様を生徒会に推薦したのでしょうか?」



『リカじゃないとダメ!俺はリカがいいの!』



「……知りませんよ」



そう言って2杯目の紅茶を一気に飲み干す。



未空が俺を生徒会に推薦した理由は分からない。
「一緒にいたい」なんて曖昧な理由だけでは到底信じられるものではなかった。
どうせ大した理由なんてない。きっと異例の転入生が珍しいだけだ。
あの2人だってそうだ。人が良い顔をして結局は好奇心に駆られて人の粗探しに興味津々だった。
それに生徒会長に関しては「必要ない」の一言だけ。
逆にそれが彼等の印象を良くも悪くも引き立てたのかもしれない。



「それで立夏様はどうするおつもりなのですか?」

「勿論断りましたよ」



本当は理由なんてどうでも良かった。



「何故です?」

「何故って…」



関わりたくない。

近付きたくない。



ただ、それだけだから。


< 76 / 552 >

この作品をシェア

pagetop