歪んだ月が愛しくて1
「ははっ、さっすが…」
乾いた笑みが思考を遮る。
「何か?」
「いやね、文月の右腕だけはあるなと思って。立夏に対する執着心が半端ない」
「執着?私が?」
「自覚がないとは言わせませんよ。じゃなきゃあの文月が自分の大切なもんを他人に任せるはずがない」
「………」
「あ、因みに褒めてますからね。怒らないでね」
執着とは少し違う。
少なくとも私が立夏様に抱いている感情は主人とは別のものだ。
ただそれを立夏様に伝えるつもりはない。ましてやこの男なんかに。
「それでご用件は?」
誰が教えてやるものか。
「勿論立夏のことですよ。文月にも立夏のことで何かあったら逐一報告しろって言われてたもんで」
「覇王ですか?」
「そう、さっき立夏から聞いた通り。案の定アイツ等立夏に興味津々ですよ」
「………」
生徒会執行部。通称覇王。
表御三家の筆頭神代財閥次期後継者、神代尊を中心とする傍若無人集団。
己の欲を満たすためならどんな手段も厭わない。例えそれが倫理通念上反することであっても。
「そもそも立夏をC組にしたのが間違いだったんですよ。うちにはアイツがいるってのに」
「仙堂未空ですか…」
「速攻目を付けてましたよ」
覇王が立夏様の存在を無視するはずがない。
その稀有な容姿だけでなく異例の転入生の肩書きに食い付かないはずがなかった。
しかし私ですら想定出来ることを主人が見逃すとは思えない。
「きっと何か考えがあってのことでしょう」
リスクを負ってでもC組を選んだ理由が。
「考えね…。テメーで“生徒会と関わるな”って言って置きながら何やってんだか」
ただこれだけは断言出来る。
主人は私利私欲のために行動しているわけではない。
他人から見たら横暴とも取れる行為もそこにはいつも立夏様の存在があってこそのものだった。
だからこそ千種様は主人のやり方に何も言わない。主人なら立夏様の心を守ってくれると信じているのでしょう。
(私も…)
「………あ」
「何か?」
「いや…、何となく分かったかも」
「分かったとは?」
「立夏をC組に入れた理由」
「狡賢いアイツが考えそうなこった」と言いながら悪戯に笑みを浮かべる紀田先生。
先程までの胡散臭い笑顔じゃないだけマシか。
「俺の予想、聞きたい?」
その表情は「聞いて欲しい」と言わんばかりに得意げなものだった。
「是非」
リスクを負ってでも立夏様をC組に入れた理由。
気にならないはずがない。
例えそれが正解でなくても少しでもヒントが欲しかった。
立夏様を生徒会から遠ざけるためにも。
生徒会の存在を頭ごなしに否定するつもりはない。
ただ主人が立夏様を生徒会から遠ざけるつもりなら私の役目は一つだ。
『立夏様はご自分の好きなことをするべきです』
矛盾している。
あんなこと言って置きながら。