歪んだ月が愛しくて1
「あ、お前…」
その声に思わず反応して振り返る。
そこにいたのは勿論俺と同じ制服に身を包む男子生徒だが、どこか見覚えのある奴だった。
「アンタ…」
ああ、思い出した。
この間トイレで絡んで来た奴だ。
「お前もサボリか?」
また面倒なのが現れたよ。
「……アンタには関係ない」
男を無視して足を進める。
一度しか会ったことのない奴と世間話したって仕方ない。
「お前、ギャップ激し過ぎ」
その言葉に不覚にもまた足を止めてしまった。
「は?喧嘩売ってんの?」
「そんなもん売るかよ。アイツみたいになりたくねぇからな」
「アイツ?」
「お前が蹴り入れた奴」
そう言われて言葉に詰まる。
今の今まで忘れてた事実から目を背けたい。
「まさかお前が喧嘩出来たとはね。お前って見た目によらず強ぇんだな」
「……正当防衛」
「それ言われちゃ何も言えねぇよ」
ケラケラと笑う、男。
胡散臭い笑みに無意識に眉を顰めた。
「そういや、自己紹介がまだだったな」
「必要ない」
「まあ、そう言うなよ。俺は3年D組の我孫子劉。一応お前の先輩ね」
「聞いてねぇよ…」
我孫子と名乗った男はオレンジ色の短髪に目付きの悪い三白眼に、高身長で制服の上からでも分かるほどがっしりとした体格。その上聖学の生徒には珍しく装飾品をジャラジャラと付けて制服を着崩した如何にも不良風の男だった。
「今ちょいと時間あるか?聞きてぇことがあんだけど」
「……何?」
「生徒会を断ったって本当か?」
コイツもか。
どいつもコイツもミーハーだな。暇人かよ。
「本当だけど」
「何で?」
「アンタには関係ない」
「またそれかよ」
我孫子はポケットから煙草を取り出すと躊躇うことなく火を点けた。
ここ廊下の真ん中なんだが。
「アンタこそそれを聞いてどうするわけ?」
「別に。ただ気になったから聞いただけ」
「気になる?」
生徒会が?
それとも…。