歪んだ月が愛しくて1



ジリッと、胸の中心に嫌悪感が募る。
それはきっと我孫子の言ってることが強ち間違ってないからだ。



でも違う。

俺が覇王を拒絶する理由はそんなんじゃない。



「俺達はお前を歓迎す…「興味ない」



我孫子の差し出した手がピタッと止まる。



「俺が生徒会に入らないのはただ面倒から。アンタみたいに復讐なんて感情は持ち合わせてねぇよ」

「……まだ分かんねぇか?奴等がどう言う連中か」

「金と権力に物言わせて学園を牛耳る支配者」

「そうだ。だから奴等にこれ以上好き勝手させないためにもお前の力が必要なんだ。俺とお前ならきっと…」

「だから興味ねぇって言ってんだよ」



我孫子のしつこい追求に思わず低い声が出る。
無意識な低音は我孫子の肩をビクッと揺らした。
その様子を見て無意識に口角が上がる。



「復讐なんて興味ねぇ。革命希望なら他当たれ」



我孫子は喋らない。

いや、喋れない。



スッと目を細めて我孫子を見ると額には薄っすらと汗が伝っていた。



あれ、言い過ぎた?
いやいや、その見てくれでそれはないでしょう。
もうちょっとそれらしく言い返してくれてもいいのに。
ま、今のうちに帰らせてもらうけど。



我孫子が何も言わないのを良いことに背を向けて足を進める。



「奴等に関わると碌なことねぇぞ」



小さな言葉が背中に注がれる。
我孫子の回復の早さに関心するも振り返るつもりはない。



碌なことがないのは目に見えてる。
だから面倒臭いを理由に断ってるし、境界線の引き方だって間違えてないはずだ。



「ご忠告どうも」



今度こそ足を止めることなく階段を上って行く。
そんな俺の後ろ姿を我孫子は壁に煙草を押し潰しながら口角を上げて見つめていた。



「藤岡立夏、ね…」



我孫子は徐にズボンのポケットからスマートフォンを取り出して耳に当てた。
しかしその視線は真っ直ぐに俺の後ろ姿へと注がれていた。



「唆られるね…。後者を選んで正解だったな」


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