歪んだ月が愛しくて1
学生棟の食堂は1階と中2階に別れている。
転入してまだ数えるくらいしか利用したことのない学生棟の食堂だが、普段から嫌煙しがちの中2階に案内されたのは初めてだった。
しかも中2階には俺達以外誰もいなかった。貸切でラッキー……じゃなくて、何か可笑しくないか?
「驚かせてしまってすいません。立夏くんがこう言うのを苦手とは聞いていたのですが、折角の機会なのでお邪魔させてもらいました」
ええ、おたくらのせいでね。
騒がしいのも悪目立ちすんのも大嫌いなんだよこっちは。
「折角の機会って何?」
ふと疑問に思ったことを未空に尋ねると。
「今日は皆いないんだって。頼稀はアゲハに呼ばれて管理人室に行ってて、アオは学級委員の仕事で、のんちゃんはアオの手伝い。だからヨージと九ちゃんを誘ってみた」
何でだよ。
よりによって覇王を誘うとかバカか?
この間のこと忘れてんのか?
「そしたら2人共ノリノリで行くって言うから連れて来ちゃった!」
未空の笑顔に若干の殺意を覚えながら3人に気付かれないよう小さく溜息を吐いた。
「りっちゃんに誘われたら行かないわけにはいかないっしょ」
「まさか誘って頂けると思わなかったので嬉しかったです」
「別に誘ってません」
寧ろ余計なことしてくれたよ。
何でこの連中とまた顔合わせなきゃいけないんだか…。
「……ダメだった?」
出た、上目遣い攻撃。
自分の顔をよく理解してることで。
「………別に」
そう言うと未空はパッと花が咲いたように微笑んだ。
「ありがとう!リカならそう言ってくれると思ったよ!」
「はいはい」
未空は俺に抱き付いたまま離れない。
そればかりか俺の首元に顔を埋めて深呼吸する。
「嗅ぐな」
「えー、いいじゃん。もう少しだけ」
「嫌だよ」
未空の頭を片手で押して無理矢理引き剥がすと、それを見ていた2人がすかさず会話に入って来た。
「未空、立夏くんが嫌がっていますから止めてあげて下さい」
「しつこい男は嫌われるぜ」
「これが俺の愛情表現なの。こうでもしないとリカ全然分かってくれないんだもん」
分かるか。
しかも愛情表現とかされても困るから。いらねぇから。寧ろ熨斗付けて返すわ。
「それに自分達だけ良い子ぶんのは狡くない?2人だって本当はリカに会いたかったくせに」
「俺に?」
会いたいはずがない。
あの時、はっきりと拒絶したのだから。
「そりゃ会いてぇに決まってんだろう。あれ以来すっかりご無沙汰だったんだからよ」
「中々来て下さらなかったのでこちらから尋ねてみるのも有りかと思いまして」
「2人もリカと仲良くなりたいんだって!」
意味が分からない。
「……俺、生徒会には入らないって言いましたよね」
聞こえなかったとか?
いや、まさか。