本当の愛を知るまでは
その日のうちにオフィスに呼ばれてやって来たのは、いつぞやパーティーの同伴の話をしていた30代の女性社員だった。
出迎えた花純は驚きつつ、コーヒーを淹れると隣の仮眠室に引き揚げる。
(どうなったんだろう? どうか無事に解決しますように。これ以上、光星さんが傷つきませんように)
祈るように待っていると、1時間ほど経ったところで光星が部屋にやって来た。
「花純、もう大丈夫だ」
「え、あの人は?」
「帰ったよ。弁護士にも報告した」
「そう……」
光星は花純の手を取ると、ベッドに腰掛ける。
並んで座った花純を抱き寄せ、ホッとしたようにため息をついた。
「あの、光星さん? 無事に解決したの?」
「ああ」
やっぱり彼女が犯人だったのか。
きっと光星に近い立場の人で、信頼していただろうのに、と花純は胸が痛くなる。
なんて声をかけようかとためらっていると、光星が花純の肩に頭を置いて呟いた。
「良かった……。俺は誰にも裏切られてなかった」
「えっ? それって、どういう……」
「彼女の知らないところで、赤の他人によってクラッキングされていたんだ」
光星は静かに事情を説明した。
パーティーの同伴を断った日、帰宅した彼女の部屋を、つき合い始めたばかりの恋人が訪れたこと。
やり残した仕事をしていた彼女は、テーブルにパソコンを広げたまま恋人を招き入れ、コーヒーを淹れにキッチンに立った。
どうやらそのすきに、その恋人は社内ネットを通じて、光星にしか権限のない社長のメールに不正にアクセスしたらしい。
「その時彼女が、俺が行くパーティーにゴールデンシステムズのアンドリューも行くことをその恋人に話したらしい。部外者に漏らしてしまったと彼女は泣いて謝ってたけど、そもそもそれ自体は機密事項には当たらない。それっきりその恋人とは連絡が取れなくなったらしいから、彼女は利用されてしまっただけなんだろうな。一番の原因は、イントラネットのセキュリティーが甘かったことだ。分からないように巧妙に遠隔操作アプリをインストールされていた。弁護士に報告して、これから声明文の発表に向けて話し合う」
「そうでしたか……」
「まだやることはたくさんあるけれど、これでひとまず解決した。はあ、良かった」
甘えるように身体を預けてくる光星を、花純は優しく抱きしめた。
「お疲れ様でした。光星さんが誰かに裏切られてなかったのが何より嬉しいです」
「俺もだ。信じ続けて良かった。信じられたのは花純のおかげだ。心折れずに今日まで踏ん張れたのも、花純がそばにいてくれたからだ」
「そんな、私なんて何も……」
「花純がどう言おうが、俺を救ったのは花純だよ。本当にありがとう」
「光星さん……」
ようやく実感が湧いてきて、花純はホッとする。
と同時に、目に涙が込み上げてきた。
「良かった、本当に良かったです」
「ああ。しばらくはまだ騒ぎも収まらないだろうし、一度離れたスポンサーやユーザーもすぐには戻ってくれないだろう。だけどどん底まで落ちたらあとは上がるだけだ。花純、もうしばらくつき合ってくれる? 俺が赤字抱えた冴えない社長になっても」
「もちろんです。私が好きになったのは、大企業の社長じゃない。世界でただ一人、光星さんの存在そのものだから」
光星はふっと笑みを浮かべる。
「ありがとう、花純。けど、このままで終わる俺じゃない。必ず巻き返して、花純を幸せにしてみせるから」
「はい。もう充分、幸せだけど」
「甘いな、花純。見てろ、まだまだこんなもんじゃないからな」
「はい!」
光星の力のこもった眼差しに、花純は笑顔で頷いた。
出迎えた花純は驚きつつ、コーヒーを淹れると隣の仮眠室に引き揚げる。
(どうなったんだろう? どうか無事に解決しますように。これ以上、光星さんが傷つきませんように)
祈るように待っていると、1時間ほど経ったところで光星が部屋にやって来た。
「花純、もう大丈夫だ」
「え、あの人は?」
「帰ったよ。弁護士にも報告した」
「そう……」
光星は花純の手を取ると、ベッドに腰掛ける。
並んで座った花純を抱き寄せ、ホッとしたようにため息をついた。
「あの、光星さん? 無事に解決したの?」
「ああ」
やっぱり彼女が犯人だったのか。
きっと光星に近い立場の人で、信頼していただろうのに、と花純は胸が痛くなる。
なんて声をかけようかとためらっていると、光星が花純の肩に頭を置いて呟いた。
「良かった……。俺は誰にも裏切られてなかった」
「えっ? それって、どういう……」
「彼女の知らないところで、赤の他人によってクラッキングされていたんだ」
光星は静かに事情を説明した。
パーティーの同伴を断った日、帰宅した彼女の部屋を、つき合い始めたばかりの恋人が訪れたこと。
やり残した仕事をしていた彼女は、テーブルにパソコンを広げたまま恋人を招き入れ、コーヒーを淹れにキッチンに立った。
どうやらそのすきに、その恋人は社内ネットを通じて、光星にしか権限のない社長のメールに不正にアクセスしたらしい。
「その時彼女が、俺が行くパーティーにゴールデンシステムズのアンドリューも行くことをその恋人に話したらしい。部外者に漏らしてしまったと彼女は泣いて謝ってたけど、そもそもそれ自体は機密事項には当たらない。それっきりその恋人とは連絡が取れなくなったらしいから、彼女は利用されてしまっただけなんだろうな。一番の原因は、イントラネットのセキュリティーが甘かったことだ。分からないように巧妙に遠隔操作アプリをインストールされていた。弁護士に報告して、これから声明文の発表に向けて話し合う」
「そうでしたか……」
「まだやることはたくさんあるけれど、これでひとまず解決した。はあ、良かった」
甘えるように身体を預けてくる光星を、花純は優しく抱きしめた。
「お疲れ様でした。光星さんが誰かに裏切られてなかったのが何より嬉しいです」
「俺もだ。信じ続けて良かった。信じられたのは花純のおかげだ。心折れずに今日まで踏ん張れたのも、花純がそばにいてくれたからだ」
「そんな、私なんて何も……」
「花純がどう言おうが、俺を救ったのは花純だよ。本当にありがとう」
「光星さん……」
ようやく実感が湧いてきて、花純はホッとする。
と同時に、目に涙が込み上げてきた。
「良かった、本当に良かったです」
「ああ。しばらくはまだ騒ぎも収まらないだろうし、一度離れたスポンサーやユーザーもすぐには戻ってくれないだろう。だけどどん底まで落ちたらあとは上がるだけだ。花純、もうしばらくつき合ってくれる? 俺が赤字抱えた冴えない社長になっても」
「もちろんです。私が好きになったのは、大企業の社長じゃない。世界でただ一人、光星さんの存在そのものだから」
光星はふっと笑みを浮かべる。
「ありがとう、花純。けど、このままで終わる俺じゃない。必ず巻き返して、花純を幸せにしてみせるから」
「はい。もう充分、幸せだけど」
「甘いな、花純。見てろ、まだまだこんなもんじゃないからな」
「はい!」
光星の力のこもった眼差しに、花純は笑顔で頷いた。