本当の愛を知るまでは
着替えてメイクも済ませてから隣のオフィスに行くと、光星がテーブルにトーストと目玉焼き、サラダを並べていた。

「座ってて。今、コーヒー淹れるから」
「あ、私がやります」

花純は、夕べやり方を教わったエスプレッソマシンでコーヒーを二人分淹れる。

「奥にキッチンがあるの?」
「ああ、臼井が使うから結構本格的なね。でも今は臼井の作った料理じゃなくてごめん。期待するなよ?」
「ふふっ、朝から一緒に食べられるだけで嬉しいです」

二人で「いただきます」と手を合わせた。

「花純、やっぱりこれ持ってて」

食後にコーヒーを飲みながら、光星は高層階エレベーターを呼ぶセキュリティーカードを差し出した。

「いつでもここに来てくれて構わないから」
「はい。では、お預かりします」
「次のデートはどうしようか。いつがいい? どこか行きたいところはある?」

花純は、んー……と考える。

「私、来週の火曜日から2連休なんです。お盆の振り替えで。でも光星さんはお仕事ですよね?」
「来週の火曜日? ちょっと待って、確認する」

立ち上がってデスクからタブレットを持って来ると、光星は画面に目をやりながらしばし思案した。

「対面の打ち合わせはリスケして、あとはテレワークでいけるな。2日間空けられるから、泊まりで遠出する?」
「えっ、いいの?」
「もちろん。でもお盆過ぎとはいえ、夏休みで予約取りづらいかな」
「それなら大丈夫。実は山梨のリゾートホテルに、旅行会社の社員が特別枠で招待されてるの」
「へえ、いいな。俺も泊まっていいの?」
「うん、大丈夫。じゃあ予約しておきますね」
「ああ、楽しみにしてる」

7時になると、花純はカバンを持って自分のオフィスに向かう。

「じゃあ、光星さん。またメッセージしますね」
「俺からも送るよ。行ってらっしゃい」
「行ってきます」

笑顔で手を振ると、腕を伸ばした光星に抱き寄せられる。
額にチュッとキスをされ、花純は真っ赤になりながらそそくさと部屋を出た。
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