本当の愛を知るまでは
夕食はホテルのレストランでコース料理を楽しみ、夜のショッピングストリートを散歩しながらライトアップされた夜景を眺めた。
チャペルでのミニコンサートを聴いてから、ワインハウスで美味しいワインをテイスティングする。
部屋に戻ると、テラスにある専用露天風呂に浸かった。

「はあ、なんて贅沢なの」

湯船の縁に腕を載せて景色を見ていると、コンコンと部屋に続く引き戸がノックされる。

「花純? 一緒に入っていい?」
「えええ!? だ、ダメです!」
「でももう服脱いじゃった」
「はっ?」

呆気に取られてから、花純は急いでバスタオルを身体に巻いて湯船に深く身を沈めた。

「電気消して暗くするから。ちょっとだけいい?」
「じゃあ、あの、ほんのちょっとだけ」
「ああ」

ドキドキしながら背を向けていると、かすかにパシャッと水音がしたあと、スーッとお湯が動く。

「花純」
「は、はい」
「隣に行っていい?」
「どうぞ」

お湯が口に入りそうなほど身を縮こめていると、すぐ隣に光星がやって来た。

「気持ちいいな。景色は綺麗だし、静かで時間がゆったり流れてて」
「ほんとですね。日頃の忙しさを忘れます」
「ああ。こういう時間、もう何年も忘れてた。花純、これからも休みが合う時はここに来ないか?」
「はい。全部見て回るには、一泊じゃ全然足りないですもんね。今度は違うお部屋にも泊まってみたいな」
「そうだな。冬はスキーも楽しめるみたいだぞ」
「じゃあ、この露天風呂も雪見風呂になる?」
「そう。プールのジャグジーも。最高だな」

二人で顔を見合わせて笑う。
ふと真剣な表情に戻った光星が、顔を寄せ、花純はそっと目を閉じた。
重なり合った唇は、甘く溶け合うように離れない。

「……花純、のぼせそうだな。そろそろ上がろう。バスローブ持って来る」
「はい」

ザバッとお湯から上がった光星が、バスローブを羽織って戻って来た。

「ベンチに置いておくよ」

背中に聞こえる声に「はい」と返事をしてから、花純は真っ赤に火照った顔をしばらく冷やしてから上がった。
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