本当の愛を知るまでは
「花純、寝室どっちがいい? 1階と2階」

光星に聞かれて花純は、え?と真顔になる。

(一緒に寝ないんだ……)

期待していた自分が恥ずかしくなり、しょんぼりしながらうつむいた。

「えっと、じゃあ、2階でもいいですか?」
「分かった、そうしよう」

そう言うと光星は花純の手を取り、螺旋階段を上がる。

(あれ? えっと……)

2階に行くと光星はベッドに花純を促し、エアコンや照明を調節し始めた。

「暑くない?」
「大丈夫です」
「明かりも少しだけ残しておく?」
「はい、ありがとうございます」

姿を目で追っていると、最後に光星はベッドに入り、花純の隣に横たわる。

「えっ!」
「ん? どうかしたか?」
「あの、光星さんもここで寝るの?」
「は!? 当たり前だ。花純、ヘビの生殺しにでもするつもりか?」
「だって、その……。どっちの寝室がいいかって聞くから、てっきり別々の部屋に別れるのかと」
「そんなわけあるか。単に花純の好みを聞いたんだよ。忘れられない夜を過ごすにはどっちの寝室がいいかって」

花純の顔は一気に赤くなった。

「忘れ、られない……?」
「そう。ずっとずっと待ち望んでた。花純とのこの時間を」

もう花純は視線も上げられない。
心臓はドキドキと早鐘を打ち、目には涙が込み上げてくる。

「花純? ひょっとして、緊張してる?」
「……うん」

元彼と別れてから6年近く経っている。
遠い昔の記憶は役に立たず、どうしていいのかも分からない。

「可愛いな、おいで」

光星は腕枕で花純を抱き寄せた。

「花純、先週俺のオフィスの仮眠室で一緒に寝ただろう? あの時、君に手を出さなかった俺を褒めてほしい。どれだけ己の理性と戦ったと思ってる?」
「え、そうだったの? だって、ぐっすり眠れたって言ってたから」
「一睡も出来なかった。いっそのことオフィスのソファで寝ようかとも思ったけど、やっぱり花純の寝顔が見たくて。ひと晩中、葛藤してたよ。だから花純、今夜は許してくれる?」

じっと見つめられ、花純は小さく頷く。

「はい」
「ありがとう。大切にするから」

光星は優しく微笑むと、花純にそっと最初のキスをする。
次のキスはもっと長く。
だんだん甘く、深く、吐息交じりに。
目元に、耳元に、首筋を通って鎖骨に。

髪をなでてから、バスローブの中に手を忍ばせた。
花純の肌はきめ細やかで、一度触れたらもう止まれない。
光星は高まる欲望に突き動かされるように、大きくくつろげた花純のバスローブの胸元に顔をうずめた。
んっ、と花純が小さく甘い声をこぼす。
それが更に光星の興奮をかき立てた。
敏感な箇所に触れ、艶めかしい身体のラインをなぞり、素肌を暴いて口づけていく。

「花純、誰にもやらない。俺だけのものだ」

誰にともなく呟いた言葉は、滝沢に対してなのか?
もはや冷静ではいられなかった。
ポケットに入れていた避妊具を取り出してからバスローブを脱ぎ捨て、花純と素肌を合わせる。
ゆっくり身体を繋げると、その心地良さに、全ての意識が持っていかれそうになった。

「花純……、愛してる」
「私も、光星さん……」

何度も愛を刻み込み、花純の瞳からこぼれ落ちた綺麗な涙をキスで拭う。
身体はどこまでも疼き、心はどこまでも高ぶっていく。

こんなに我を忘れるとは……

やがてクタリと力尽きて眠る花純を抱きしめながら、ごめん、と呟いてそっと額にキスをした。
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