Drive Someone Nuts

2

 二日酔いから一週間後、バイト先には既に岡田さんがいつもの席でホットコーヒーを飲んで小説を読んでいた。出勤でエプロンに着替えカウンターに出た高瀬の視線に気付くと、ぺこりと会釈してまた小説に視線を戻した。高瀬は自分勝手ながら寂しい気分になった。てっきり少しくらい話すのかと思ったらまるでいつも通りである。連絡はSNSでとっているし親し気な電話をすることもある。だから今までの距離感が逆に違和感に感じられた。

「どうかした?」

 マスターの岩城がひょっこりと顔を覗かせてきた。白髪のオールバッグが妙に様になっている。本当のことは言えないので、ははは、と適当に流す。マスターは危険で妙に察しが良かったりする。新規のお客さんが入ってきてもどんな関係性か見抜いて、こっそり耳打ちしてきたりするのだ。だからこそ、あー岡田さんとこっそりデートしたんですけどなんて口を滑らせることはできない。
< 15 / 31 >

この作品をシェア

pagetop