Drive Someone Nuts

　高瀬のシフトと岡田さんの来店日がそこそこ被ることが多い。岡田さんは不思議な人で週三くらいで来るけれど頼むメニューはいつもバラバラだったりする。新商品が出たら絶対に頼む、飲み物はブラックコーヒーかココアが多い。そんな小さなことだけ高瀬は知っていた。高瀬の勤める純喫茶店は基本人の出入りもゆったりしていてとても静かだったりする。高瀬にとってこの職場は最高に気持ちが落ち着く場所だ。きっと彼も居心地が良いのだろう。彼は空いていればいつも決まった席である窓際の柔らかく日差しが当たる席でぼんやりと小説を読んだり、マスターと話したりする。

　たまに視線が混ざって会釈すれば緩く手を振られるくらいの仲、だ。

　薄い繋がりといえど、顔見知りである。
　脳裏に一瞬、逃げる、っていう言葉が出たけどそれは常識的に失礼だ。

　腹を決め、履きなれていないピンクのパンプスを鳴らして歩く。迫ってくる高瀬の気配に気付いたのか、途中で顔を上げた彼は少しだけ驚いたように口を開け、高瀬を見上げた。