Drive Someone Nuts
「蓮司さん…岡田蓮司さんですね」

 神妙に尋ねてしまい、彼は小さく噴き出した。

「火サスの刑事みたいな、訊き方をするんですね」
「なんて言っていいかわからなくて」
「確かに…こんなこともあるんですね。世界は意外に狭くて驚くことが多い」

 そういう割に彼はもう落ち着いている様子で、立ち上がって腕時計で時間を確認した。
少しだけ気まずそうな顔で私に尋ねた。

「この後、アプリで話していた美味しいタイ料理の店を予約しているんですけど…」

 けど、の後に続く言葉は直ぐに分かった。
 でも今日はこんなに綺麗にめかしこんで、そのまま一人で帰るのも嫌である。
 それに、彼とアプリで好きな音楽の話や日常のことを気ままに話すのが凄く楽で今までお付き合いしてきた人と違った安心感があった。
 知り合いだからとここでさよならするには名残惜しい。

 不安そうに揺らめく瞳の影を見て、同じ思いだと受け取りするりと言葉が出た。

「行きましょう!もうお腹がぺこぺこで」
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