嘘でいいから、 抱きしめて
クリスマス
「─メリークリスマス♪ミトさん」
机で書類整理をしていた、12月末。
上から降ってきた声に顔を上げると、いつの間に侵入したのか、ミヤと呼ばれている青年が微笑んでいた。
「何の用だ?」
パーカー姿に、棒付きの飴。
少し大きめのズボンに、伸ばされた髪。
……不思議なことに、千春の仕事姿と同じ。
「仕事帰りに寄ってみたんだ〜クリスマスだからね、プレゼントだよ」
そう言って、可愛らしい素振りで小さな箱を机に置いたミヤは、櫂にプレゼントを開けるように促した。
「それで?」
プレゼントを開けながら尋ねると、
「やだな、ミトさんってば。今日は25日だよ。聖なる夜だ。パーティーをするから、お誘いに来たんだよ」
そう言って、にっこりと微笑む。
「……これでか」
プレゼントの中身は、白い花がひとつ。
「やだなぁ〜ちゃんと下にもあるよ」
花を退けてみると、出てきた箱。
「…………はぁ」
箱を開いて、中身を見る。思わず、零れるため息。
「あ、嫌いだった?オルゴール」
と、ミヤは目の前のソファーに勝手に座り、寛ぎながら、聞いてきた。
「……君は、何がしたいんだ?」
入っていた白い花─ゼラニウムを手に訊ねると、彼は。
「単純にプレゼントだよ。深い意味は無い」
「ならば何故、わざわざ白いゼラニウムなんだ?」
「……」
箱の中身─フラワーオルゴールに使われていたのは、白いダリアとピンク色の薔薇。明らかに可愛らしい雰囲気のものであり、僕には不釣り合いの代物。
しかし、それ以上に引っ掛かるのは、白いゼラニウムだ。
「─ハハッ、花言葉もわかるんだ?」
「母が花が好きなんだ」
「へ〜」
興味無さそうに、天井を見るミヤ。
何を考えているか分からないが、用事が終わったならば、早く出ていって欲しい。
「君が僕にどんな感情を抱いていようが、僕はどうでも良い。用事が終わったならば、出て行ってくれないか」
「ええ……それはあんまりじゃない?もう少し、君とは話をしたいんだけど」
「……」
時間の無駄だ。しかし、引き下がりそうにない雰囲気に、櫂は諦めて、眼鏡を外した。
白いゼラニウム─花言葉は【偽り】や【私はあなたの愛を信じない】などで、海外では嫌いな相手に贈る花として有名なものである。
それを贈られたからといって、別に何かを思うことは無いが、目の前のミヤという男は─……。